道を切り開く女性の時計 《ブローバ リーディング・レイディ》 "LEADING LADY" by Bulova 上質のハイ・ジュエル・ウォッチ 1966年


ムーヴメントの種類: ブローバ キャリバー 5BD

ケース(竜頭を除きラグを含む時計本体)のサイズ 縦 27.8 x 横 18.3 ミリメートル  風防と裏蓋を含む厚さ 7.3 ミリメートル



 《ブローバ リーディング・レイディ》(英 LEADIN LADY)は 1960年代半ばから後半にかけて販売された女性用腕時計です。《リーディング・レイディ》(英 LEADIN LADY)という品名は、道を切り開く女性、先頭に立つ女性という意味で、自分の気持ちに素直でありつつ、活き活きと積極的な毎日を送るひとを思い起こさせます。





 ミッド・センチュリー(英 mid-century 世紀の半ば)と呼ばれる二十世紀半ば、とりわけ 1960年代から 1970年代は、機械式時計の技術が頂点に達した時代です。この時代は男性用腕時計、女性用腕時計とも優れた技術によって極小化し、現代の腕時計に比べて格段に小さく作られました。上の写真は本品《ブローバ リーディング・レイディ》を一円硬貨とともに撮影したもので、合成写真ではありません。カメラのレンズから時計の文字盤までの距離と、時計の左側に立っている一円硬貨までの距離は同じです。この写真でも分かるように、本品は一円硬貨よりも小さく華奢(きゃしゃ)なサイズです。





 時計内部の機械をムーヴメント(英 movement)、ムーヴメントを保護する金属製の容器(時計本体の外側)をケース(英 case)といいます。 本品のケース裏蓋には十カラット・ロールド・ゴールド・プレート(英 10 KARAT ROLLED GOLD PLATE)の表示があります。本品のめっきに使われている金は、銀色のホワイト・ゴールドです。

 ロールド・ゴールド・プレートとは板状の金をベース・メタルに張り付けた素材です。本品のロールド・ゴールド・プレートは現代の金めっき(エレクトロ・プレート)に比べて金の層が格段に分厚く、優れた耐久性を有するとともに、見た目にも高級感があります。本品のケースに張られている金は十カラット・ゴールド(純度 10/24のゴールド 十金)で、十八カラット・ゴールド(純度 18/24のゴールド 十八金)に比べて金合金そのものの強度もずっと強く、時計ケースの素材として優れています。





 時計にバンドを取り付けるための突起をラグ(英 lugs)といいます。現代の時計はケースの十二時側と六時側にそれぞれ二本ずつのラグが突出し、バネ仕掛けで伸縮する小さなピン(バネ棒)により、革や布、金属でできた薄く幅広のバンドをラグに固定する仕組みになっています。しかるに二十世紀中頃の女性用時計はとても小さいので、ほとんどの場合、ケースの十二時側と六時側にそれぞれ一本ずつのラグが突出し、バンド末端の金具をラグの孔に引っかけるセンター・ラグ方式が採用されました。本品もそのような時計のひとつです。

 本品のラグは植物の若芽あるいはパナッシュ(仏 un panache 羽根飾り)のような形状で、フロレンティン(英 Florentine フィレンツェ彫り)と呼ばれるクロスハッチの彫金を部分的に施しています。手間をかけたフロレンティンの彫金は柔らかな光を反射し、大型ラグの艶やかな金属光沢に温かみを添えています。





 時計において、針が動く背景となる板状の部品を、文字盤(もじばん)または文字板(もじいた)といいます。本品の文字盤は半艶消しの銀白色で、上部中央にブローバのロゴ(BULOVA)、最下部にスイス製の表示(SWISS)が書かれています。アンティーク時計の文字盤は変色していることも多いですが、本品の文字盤はほとんど変色しておらず、たいへん綺麗です。

 時計の文字盤には時刻を表す刻み目や数字が配置されており、これをインデックス(英 index)と呼んでいます。本品のインデックスは 12時と6時がアラビア数字、それ以外は短いバー(棒)で、いずれも金色の小部品を植字した立体インデックスとなっています。アンティーク時計のインデックスは文字盤と同様に変色していることが多いですが、本品のインデックスは変色も腐食も無く、きらきらと輝いています。

 針は長短針とも金色のバー(棒)型で、やはり腐食の無い綺麗な状態です。針のシンプルな形状は清潔感ある文字盤のデザインとよく調和するとともに、優れた視認性を確保しています。なおこの時代の女性用時計は秒針を持たない二針式です。二針式の時計はドレスウォッチです。





 上の写真は本品のケース裏蓋で、上部(12時側)にブローバの社名と、1966年を表すデイト・コード(M6)、十カラット・ロールド・ゴールド・プレート(10 KARAT ROLLED GOLD PLATE)の文字が刻印されています。下部(6時側)に刻印された六桁の文字列(L47429)は、ケースのシリアル番号です。本品のケースは良い状態で、金の磨滅、裏蓋の歪み等、特筆すべき問題は何もありません。裏蓋の中央には、流麗な字体の手彫りによって、「ビヴァリー 1969年」という女性名と年号が美しく彫り込まれています。

 1950年代、60年代のアメリカでは女性の社会進出が未だ進まず、大抵の女性は高校を卒業後すぐに結婚して、家庭の主婦になりました。その頃普及したテレビは主婦をターゲットにソープ・オペラ(英 soap opera メロドラマ)を放送し、女性たちをくぎ付けにしました。ソープ・オペラはラジオの時代からありましたが、アメリカ合衆国において昼間のメロドラマが初めてテレビ放送されたのは、1949年のことでした("These Are My Children", run on NBC from January 31 to March 4, 1949)。

 スターたちが映画館の銀幕を飛び出して家庭のテレビに映し出されるようになったことで、女性たちの間ではビバリー・ヒルズへの関心がこれまでになく高まりました。1950年代から 1960年代に生まれた女の子にはビヴァリーという名前が多いですが、この現象はスターの私生活に関心が集まったミッド・センチュリーの世相を反映しています。本品はおそらく 1960年代末に高校を卒業した女性が、卒業記念あるいは結婚記念に贈られたものであろうと思います。





 時計内部の機械をムーヴメント(英 movement)といいます。現代の時計はクォーツ式時計といって、電池で動くクォーツ・ムーヴメントを使っています。クォーツ式時計が普及したのは 1970年代後半以降で、それ以前の時計は電池ではなくぜんまいで動いていました。

 電池で動く時計をクォーツ式時計と呼ぶのに対して、ぜんまいで動く時計を機械式時計といいます。アンティーク時計はすべて機械式時計です。上の写真は本品《ブローバ リーディング・レイディ》のムーヴメントを取り出して撮影しています。本品も機械式時計で、電池ではなくぜんまいで動きます。電池は不要なので、本品のムーヴメントには電池を入れる場所がありません。






 三時の位置から突出するツマミを竜頭(りゅうず)といいます。ぜんまいはこの竜頭を指先でつまみ、回転させて巻き上げます。上の写真で竜頭はムーヴメントから左向きに突出しています。本品の竜頭にはブローバのロゴ(B)がデザインされています。

 竜頭を指先でつまんで回転させれば、誰でも簡単にぜんまいを巻くことができます。竜頭を一段階引き出して回転させると、時刻合わせができます。これは現代の腕時計と同じです。竜頭の操作(ぜんまいの巻き上げと時刻合わせ)は簡単ですので、アンティーク時計が初めての方でも全く心配はいりません。ぜんまいを十分に巻き上げると、時計は一日半動きます。そのまま放っておくと止まるので、一日一回以上ぜんまいを巻き上げてください。なお時計を長年ご愛用いただいて竜頭が摩耗しても、当店にていつでも取り換え可能ですのでご安心ください。竜頭のデザインを変更することもできます。シンプルな竜頭もありますし、石付きの竜頭もあります。

 本品のムーヴメントは、ブローバ キャリバー 5BD(Bulova 5BD)です。この時代にブローバが作っていた女性用時計のムーヴメントには、二通りのサイズがあります。いずれのサイズも現代の機械式時計では考えられないくらいに小さいですが、本品のムーヴメントであるキャリバー 5BDはその中でも一層小さな機械で、世界最小クラスのサイズを実現しています。上下の写真は本品のムーヴメントを一円硬貨に載せて撮影しています。





 ムーヴメントの受け側(裏蓋を開けるとすぐに見える側)には機械の型式名(5BD)の他、ブローバ時計会社(BULOVA WATCH Co.)、セヴンティーン・ジュエルズ(17 SEVENTEEN JEWELS 十七石)、スイス製(SWISS)等の文字が刻まれています。

 良質の機械式時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはたいへん硬い鉱物ですので、高級時計の部品として使用されるのです。必要な部分すべてにルビーを入れると十七石(じゅうななせき)の機械になります。ムーヴメントの表面に赤く見えているのがルビーで、上の写真では四つか五つしか見えませんが、文字盤を外さないと見えないムーヴメントの地板側やムーヴメントの内部を含めると、合計十七個のルビー製部品が使われています。十七石の機械はハイ・ジュエル・ムーヴメント(英 high jewel movement)と呼ばれる高級機です。

 十七石のハイ・ジュエル機を本品のように小型化する 1960年代の時計製作技術は、真に驚嘆に値します。当時のブックレットには、ブローバ社の時計のムーヴメントが特別な鋼鉄を使用して製作されており、その鋼鉄は金よりも高価であること、ムーヴメントを構成する百個以上の部品は一万分の一ミリメートルの精度で製作されていること、歯車のピッチ(歯と歯の間隔)は百分の一ミリメートル以下であること、チラネジという部品は一個のシンブルに一万四千個も入ってしまうこと、などが書かれています。





 ミッド・センチュリー当時のブローバ社はニューヨークの五番街に本社を構えていました。しかしながら同社はほとんどの場合、ムーヴメントの主要部分をスイスで作っていました。そのような理由で、本品のムーヴメントにはスイス製と刻印されています。

 ブローバはムーヴメントのエボーシュ(半完成品)をスイスから輸入し、アメリカ国内で調速脱進機を取り付けて完成する場合が多く、そのようなムーヴメントの受けには、スイス製の表示に加え、アナジャスティド(英 UNADJUSTED 未調整)の文字が刻まれています。調整というのはエボーシュの段階の話で、ブローバ社はこれに主ぜんまいや調速脱進機を加え、調整を行います。ですから時計として完成した段階では、当然のことながら歩度(ほど 時間の進み具合)は調整されています。アナジャスティドの文字はエボーシュの段階の表示が残っているだけですので、ご安心ください。





 上の写真でムーヴメントの右寄りに金色の大きな環が見えています。これは天符(てんぷ)という部品で、機械式時計の心臓に相当する調速脱進機の一部です。ブローバ キャリバー 5BD の天符は 21600振動(f = 21600 A/h)といって、一秒間に三回、一時間に 10,800回の割合で振動(振り子のように往復しつつ回転すること)を繰り返します。

 ミッド・センチュリー当時、本品のように質の良い時計の価格は、初任給の二か月分以上に相当しました。現代の貨幣価値でいえば、三、四十万円といったところでしょうか。クォーツ式(電池式)の安価な時計が容易に手に入る現在から見ると、昔の時計は想像もつかないほど高価な品物であったわけですが、製造後数十年経った時計でも普通に使えるという「一生もの」のクオリティを備えていたのであって、いわゆるブランド代ゆえに品質に比べて価格が高すぎる商品とは事情が異なります。初任給二か月分の価格が付いた商品には、初任給二か月分の実質的な値打ちがあったのです。

 機械式時計は現在でも作られています。高級品を紹介する雑誌などで見かける数十万円から数百万円の時計が、機械式時計です。クォーツ式時計は数年の寿命で、かなり良いものでも十年余りで回路が壊れて修理不能になりますが、機械式時計は数十年以上のあいだ動く「一生もの」です。良質の機械式時計の「初任給数か月分」という値段は、昔も今も変わりません。本品の機械はもともとの耐久性が高いうえに、アンティークアナスタシアは古い時計の修理に対応していますので、当店のお客様はこの美しい時計を一生ものとして末長くご愛用いただけます。どうぞご安心ください。





 昔も今も、時計会社は時計のみを作り、バンドは作っていません。新品の時計を買ったときに付いているバンドは、バンドのメーカーが時計会社に納入したものです。それゆえアンティーク時計のバンドに関しても、そのバンドが時計製造時に取り付けられたオリジナルかどうかということはあまり気にする必要がありません。革や布のバンドは消耗品ですから時期が来れば交換する必要があります。金属製バンドは革や布よりも優れた耐久性を有しますが、サイズやデザインの好みが合わないこともあり得ますし、長い目で見れば交換が必要になることもあります。

 商品写真に写っているバンドはバネによる伸縮式で、全く伸びていない状態で測ったサイズは、時計を含めておよそ 17センチメートルです。伸縮式のバンドは切れ目が無いので着脱に手間が掛からず、誤って落下させる可能性も少ない優れものです。このバンドは良好な状態ですが、サイズが合わない場合、もしくはデザインが好みでない場合は、クラシカルな黒紐のバンドや、金属製の留め金式バンドに無料で変更いたします。お気軽にお申し付けくださいませ。





 本来たいへん高価であったハイ・ジュエル機が手の届く値段で買えるのはアンティーク時計の長所ですが、より大きな楽しみは、他の人が同じものを持っておらず、実質的に一点ものとなった時計を入手できるということでしょう。ユニークなしずく型文字盤の本品は、一円硬貨よりも小さなサイズもたいへん可愛らしく、アンティーク時計でしか楽しめない稀少な品物です。現代のクォーツ式時計にもミッド・センチュリーのヴィンテージ・ウォッチを模した小さな時計がありますが、現行時計の文字盤は円か楕円か四角形と決まっていて、本品のようなしずく型はありません。





 ユニークな文字盤の欠点は、風防(いわゆるガラス)を破損したり紛失したりした際に、風防交換ができないことです。風防交換が出来ない理由は、このような形状の風防が、現在ではどのメーカーにも問屋にも在庫していないからです。

 しかしながら当店アンティークアナスタシアには古い時計風防の在庫が揃っており、変形風防の交換にも対応しています。上の写真は本品《リーディング・レイディ》に適合する風防で、CF318-42は縁が垂直に切り立ったタイプ、CF318-43は縁が斜めにカットされたタイプです。七枚の交換用風防は全て 1960年代に製造された新品で、ゆがみや変色等の問題は一切ありません。





 ちなみにしずく型の風防は当時から少数の機種にしか採用されず、もともと珍しい形ですが、当店には《ブローバ リーディング・レイディ》以外のしずく型風防も揃っています。上の写真は左から右に、上段がベンラス、グリュエン、タイメックス、不明メーカー、中段がクロトン、エルジン、ヘルブロス、ウィトナー、ブローバ(CF377-14)、下段がヴァンテッジ、ハミルトン、ロンジン、セイコー、ブローバ(CF318-42)の風防です。





 当店アンティークアナスタシアには古い時代の時計の箱が揃っており、本品は当時の箱に入れてお渡しいたします。箱代は無料です。箱の種類はお客様のご希望をききながら、当店にて適切な種類を選びます。上の写真に写っているのは 1920年代から 1970年代のブローバの箱です。







 本品《ブローバ リーディング・レイディ》は良質の女性用ハイ・ジュエル機で、小さなしずく型の文字盤がユニークな魅力となっています。アンティーク時計の中にはもともと質が良い時計であっても、きちんとメンテナンスされていなかったために劣化している品物もありますが、本品は外装及び内部の機械とも良い状態です。本品はオーバーホール済で、たいへん調子よく動いています。特筆すべき問題は何もありません。

 アンティーク時計を安心してご購入いただくために、全般的な解説ページをご用意いたしました。アンティーク時計を初めて購入される方は、こちらをお読みくださいませ。





本体価格 88,000円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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