前表(予徴、予表)
praefiguratio, figura/figurae, typus/typi, allegoria/allegoriae




(上) Caravaggio, Sacrifice of Isaac, 1603, oil on canvas, 135 x 104 cm, Uffizi, Firenze


 前表とは、旧約聖書に記述された出来事のうち、イエズス・キリストや聖母マリアの事績の先触れ、あるいは新約聖書中の出来事の先触れとなるもののことです。たとえばイサクの犠牲や出エジプトの際の過ぎ越し、砂漠に降ったマナやモーセが掲げた青銅の蛇は、いずれも十字架にかかったイエズス・キリストの前表であるとされます。旧約聖書と新約聖書の間に対応関係を見つけ出す「類型論」(typologia) は、中世の神学における重要な仕事でした。オリゲネス (Origenes Adamantius, 185 - 254) は類型論を「アナゴギア」 (anagogia) と呼んでいます。


 例を挙げます。

【出エジプト記の「燃える柴」と、聖母マリア】

 預言者モーセに対して燃える柴(灌木)のなかに神が出現したという記事が、出エジプト記 3章に見られます。テキストを引用します。

 モーセは、しゅうとでありミディアンの祭司であるエトロの羊の群れを荒れ野の奥へ追って行き、神の山ホレブに来た。そのとき、柴の間に燃え上がっている炎の中に主の御使いが現れた。彼が見ると、見よ、柴は火に燃えているのに、柴は燃え尽きない。モーセは言った。「道をそれて、この不思議な光景を見届けよう。どうしてあの柴は燃え尽きないのだろう。」(出エジプト記 3章 1 - 3節 新共同訳)


 火がついているのに燃え尽きない柴(潅木)は、神なるイエズスを身籠りながら身体に何の危害も受けず、またイエズスを出産したあとも処女であった聖母マリアの前表であると考えられました。

 下に示したのはルネサンス初期のフランスの画家ニコラ・フロマン (Nicolas Froment, fl. 1461 - 1483) の作品で、燃える薔薇のなかに現れた聖母マリアと幼子イエズス、それを見上げて驚くモーセと、モーセに現れた主の使い(天使)を描いています。


(下) Nicolas Froment, Le Buisson Ardent, 1476, 410 x 305 cm, Cathédrale Saint Sauveur, Aix-en-Provence




 新約聖書には聖母マリアとイエズスが燃える潅木に現れる記述はみられませんが、この絵はふたりを燃える潅木のなかに置くことによって、イエズスが普通の人間ではなく、三位一体の第二のペルソナ、子なる神であること、さらに聖母マリアが「神の母」(テオトコス)にして永遠の処女であるということを表現しています。


【メルキゼデクがアブラムに与えたパンとぶどう酒、及び出エジプトのマナと、エウカリスチア】

 創世記 14章 17 - 20節には、サレムの王である大祭司メルキゼデクがアブラム(アブラハム)にパンとぶどう酒を与えて祝福した出来事が記録されています。下の絵はこの場面を描いたもので、J. L. ブゾン (Joseph Beuzon et Louis Beuzon, fl. 1896 - 1935) の作品です。




 また出エジプト記 16章には、モーセに率いられてシナイの砂漠をさまようイスラエル人たちのために、神が天からマナと呼ばれるパンを降らせたという記述があります。下の絵もJ. L. ブゾンによるもので、マナを集めるイスラエル人たちを描いています。




 これらはいずれも最後の晩餐とイエズスの受難、及びエウカリスチア(聖体拝領、聖餐)の前表と考えられています。

(下) 初聖体の記念カード。1937年頃のイタリア製。




【「前表」を表す言葉】

 近代語の「前表」(英 prefiguration 仏 préfiguration) の語源となったラテン語は "praefiguratio" ですが、個々の前表に関しては "figura" の語もよく使われます。例を挙げます。

Panis angelicus fit panis hominum;
Dat panis caelicus figuris terminum;
O res mirabilis: manducat Dominum
Pauper servus et humilis.
天使のパンが、人のパンになる。
天のパンにより、数々の前表が終わりを告げる。
なんと驚くべきことであろう。
貧しく卑しき僕(しもべ)が主を食べるとは。

 これはトマス・アクィナス (St. Thomas Aquinas, c. 1225 - 1274) の「サクリース・ソレムニイース」(SACRIS SOLEMNIIS) の一節で、聖体の祝日の朝課に歌われています。上に引用した "Dat panis caelicus figuris terminum"(直訳:天のパンが数々の前表に終わりを与える)の部分に、「前表」(figura) という言葉が使われています。"figuris" は "figura" の複数与格です。


 また "typus"(範型)や "allegoria"(比喩・寓意)も「前表」の意味で頻用されます。例を挙げます。

Post agnum typicum, expletis epulis,
Corpus Dominicum datum discipulis,
Sic totum omnibus, quod totum singulis,
Ejus fatemur manibus.
前表である羊が食べられた後、晩餐が終わり、
主の御体が弟子たちに与えられた。
ひとりひとりに御体全てが与えられ、そのようにして全員に御体全てが与えられた。
主の御体はキリストの両手で弟子たちに与えられたと、我々は証言する。

 これも「サクリース・ソレムニイース」の一節です。上に引用した最初の行に "agnus typicus"(範型・前表たる羊)という表現が使われています。


 "figura"、"praefiguratio" はラテン語、"typus"(τύπος)、"allegoria"( ἀλληγορία) はギリシア語起源のラテン語です。



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