一見したところはよくあるルルドのメダイのようでありながら、非常に優れた出来栄えの芸術作品である稀少なアート・メダル。
表(おもて)面には胸の前に両手を合わせて天を仰ぐマリアの横顔を、精緻な浮き彫りで表します。このメダイの直径は 15ミリメートルであり、額の生え際から顎の先までの距離はわずか
5ミリメートルしかありません。
天使ガブリエルから受胎を告知され、「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように。」と答えてすべてを神に委ねたとき、マリアはおよそ 16歳でした。この作品において、名匠デフリーゼは少女マリアの若々しい美しさを巧みに写し取り、さらに目に見えない信仰心の純粋さをも、神を信頼しきった少女の表情を通して表現することに成功しています。少女マリアの信仰心は、祈るために合わせた手の大きさによっても強調されています。救い主降誕の器となるマリアの大きな信仰を、メダイの小さな空間に余すところなく表現しきった彫刻家デフリーゼの手腕は、見事と言うほかありません。少女マリアの肌の滑らかさ、頭に被ったヴェールの柔らかさ、肩の丸みも巧みに表現され、これが浮き彫り作品であることを忘れさせます。あたかも生身の少女を眼前に見ているような錯覚さえも覚えます。マリアの周囲には次の言葉がフランス語で記されています。
Je suis l'Immaculée Conception. 我は無原罪の御宿りなり。
これは1858年3月25日、16回目の出現の際に、ルルドの聖母が少女ベルナデットに名前を尋ねられた際の返答です。両手を胸の前で組んで目を天に向けた姿勢も、このときのルルドの聖母の姿です。
マリアの肩の後ろに、ゴドフロワ・デフリーゼ (Godefroid Devreese, 1861 - 1941) のサインがあります。デフリーゼは
1900年代から 1920年代を中心に活躍した彫刻家で、正統的アール・ヌーヴォー様式による数々の優美な作品で知られています。デフリーゼによる浮き彫り作品の参考画像を下に示しました。どうぞご覧くださいませ。
メダイの裏面にはマサビエルの洞窟における聖母出現の様子を浮き彫りにしています。岩の窪みに現れた聖母は右手首に15連のロザリオを掛けて胸の前に手を合わせ、名を問うベルナデットに対して「我は無原罪の御宿りなり」と答えています。ベルナデットはヴェールを被って聖母の前に跪き、聖母を見上げて手を合わせています。ベルナデットの手首にはロザリオが掛けられています。脱いだ靴が隣に置かれているのが見えます。
本品はおよそ百年前に鋳造されたものですが、新品同様のコンディションで、細部に至るまで完全な保存状態で残っています。優美な作風で知られるデフリーゼの作品のなかでもとりわけ美しいもののひとつであり、数あるルルドのメダイのなかでも、間違いなく最も美しい作品といえましょう。