生命の水を飲む孔雀 《オ、サリュテール・オスティ あぁ、救いのホスチアよ》 切り紙細工に縁どられた多色刷り小聖画 105 x 62 mm


中性紙にインク


写真に写っている木製額のサイズ  縦 18.3 x 横 13.5 x 厚さ 1.2 センチメートル

小聖画のサイズ  縦 105 x 横 62 ミリメートル


イタリア  1966年頃



 フランスにはカニヴェあるいはダンテル・メカニークと呼ばれる小聖画があります。カニヴェ(仏 canivet)は近世になって作られ始めた小聖画で、手作業による繊細な切り紙細工の工芸品です。ダンテル・メカニーク(仏 dentelle méchanique)は 1830年代から作られ始めた小聖画で、宗教的主題による細密版画の周囲に、型抜きによる繊細な切り紙細工を施しています。ダンテル・メカニークの切り紙細工は手作りではありませんが、広義のカニヴェに含まれます。

 本品は初聖体あるいはコミュニオン・ソラネルを記念する小聖画です。二十世紀半ばのイタリアで刷られたものですが、十九世紀のフランス製ダンテル・メカニーク(カニヴェ)を模して制作されており、聖画の下部にもフランス語が書かれています。下に示したのは本品の表裏を写した合成写真です。商品は一点しか在庫していません。





 聖画の表(おもて)面にはミサの際に葡萄酒を入れる聖杯と、何物にも支持されずにその上に浮かぶ聖餅(ホスティア)が描かれています。聖画の下部にはフランス語で「オ、サリュテール・オスティ」(仏 O, Salutaire Hostie. あぁ、救いのホスチアよ)と記されています。


 フランス語オスティ(仏 hostie)は、ラテン語ホスティア(羅 HOSTIA)に由来します。ラテン語ホスティアまたはフォスティア(羅 FOSTIA)は、犠牲獣、生贄(いけにえ)のことです。ホスティア及びフォスティアは古典ラテン語で、元々はローマ多神教の祭儀で捧げられる生贄を指しますが、キリスト教的コンテクストでは神の子羊イエス・キリストを意味します。

 犠牲獣、生贄を指すラテン語にはウィクティマ(羅 VICTIMA)もありますが、ウィクティマの語源はウィッタ(羅 VITTA 組紐、リボン)で、美しい飾り紐を首に掛けた犠牲獣を指します。神の子羊イエス・キリストは、衣をはぎ取られ、鞭打たれ、血だらけの惨めな姿で十字架に架かり給いました。それゆえ主イエスを意味する「生贄」には、ウィクティマではなくホスティアの語が使われています。


 カトリックの教えによると、聖杯に入っている葡萄酒は実体変化の後にはもはや葡萄の酒ではなく、キリストの血そのものに他なりません。また聖餅(ホスティア、オスティ)は実体変化の後にはもはやパンではなく、キリストの肉そのものに他なりません。

 聖体拝領が行われるたびに、キリストは実際に受難し給い、過ぎ越しの子羊として食卓に供されます。キリストが神の子羊として受難し給うことにより、神の怒りは本来罪ある人の上を過ぎ越します。聖画の下部に書かれている「あぁ、救いのホスチアよ」との言葉は、このことを表しています。





 本品の図像において、聖体(聖餅、ホスティア)は聖杯の上に浮かんでいます。聖体が何物にも支持されずに宙に浮かぶ様子は、ホスティアが単なる物質、生命無き物体ではなく、活きたコルプス・クリスティ(羅 CORPUS CHRISTI キリストの御体)であることを可視化しています。中空に浮かぶホスティアは、ファヴェルネの奇跡を思い起こさせます。

 聖杯は円い形をしています。ホスティアの円形は、神の無限性(あるいは無限の神)を象徴します。聖体拝領において、人は神なるキリストを食べます。トマス・アクィナスは「サクリース・ソレムニイース」(羅 SACRIS SOLEMNIIS)という詩において、「人が神を食べる」というミステリウムへの驚きを謳っています。


 本品の聖画には孔雀(くじゃく)が描かれています。キリスト教の象徴体系において、孔雀は不死を象徴します。不死あるいは永遠の命を象徴する孔雀を生命樹と共に描いた作例、彼岸の楽園で生命の水を飲む姿を表す作例、あるいは永遠の生命を与える聖体や聖杯とともに孔雀を描いた作例は数多く見られます。ただし孔雀が登場する聖画は、教会の祭壇画(例 ルーベンスによるアントウェルペン司教座聖堂の三翼祭壇画)やモザイク壁画(例 ラヴェンナ、サンタポリナーレ・ヌオヴォ聖堂の身廊北壁にあるモザイク画)など、大きな作品がほとんどです。小聖画に孔雀を描いた作例はたいへん珍しく、本品は筆者(広川)がこれまでに目にした唯一の例です。





 本品は木製額に別珍張りマットを使用し、簡易な額装を施しています。額装代金は商品代金に含まれています。

 救い主の受難は至高の愛の表出であり、聖体拝領は救い主の受難の再現です。それゆえ愛の色である赤は本品によく合っていますが、他の色がよければ変更は可能です。黒、青、ベージュのベルベットがご用意できます。


 十九世紀のダンテル・メカニークを模した二十世紀の小聖画は、縁取り部分にダンテル・メカニーク風のパターンが印刷されているだけで、実際に透かしを入れていないものが多く見られます。しかるに本品は縁取り部分が実際に透かし細工である上に、エンボス(型押し)によって立体的な加工が施されています。本品の丁寧な作りは、十九世紀のダンテル・メカニークに引けを取りません。





 上の写真は男性店主が本品を手に持って撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。

 裏面の書き込みを見ると、本品は 1966年 5月 19日、フランス北東部の町ジョリヴェ(Jolivet グラン・テスト地域圏ムルト=エ=モーゼル県)の聖母被昇天教会(l'Église de l'Assomption de Jolivet)で、ドミニク・フリードリシュ(Dominique Friederich)という少年または少女が初聖体を受けた記念の小聖画であることが分かります。ジョリヴェ自体は国境の町ではありませんが、ジョリヴェがあるムルト=エ=モーゼル県はドイツに隣接しています。フリードリシュという姓もドイツ系です。

 本品は五十年以上前に刷られた真正のヴィンテージ品(アンティーク品)ですが、良質の無酸紙(中性紙)に刷られているため、たいへんきれいな保存状態です。特筆すべき問題は何もありません。孔雀を描いた小聖画はたいへん珍しい品物です。本品は額装済みで、額装代金は価格に含まれています。





11,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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