高級品 真珠母製十字架・銀製コルプスの美麗クルシフィクス 愛らしいサイズの作例 38.5 x 21.9 x 6.3 mm


銀製キャップを含む十字架のサイズ 縦 38.5 x 横 21.9 mm

コルプスを含む最大の厚さ 6.3 mm


重量 2.5 g


フランス  十九世紀後半から二十世紀初頭




 十九世紀後半から二十世紀初頭のフランスで制作された美麗なクルシフィクス。縦四センチメートル、横二センチメートル弱は金属製のクルシフィクスに普通に見られるサイズですが、真珠母(しんじゅも マザー・オヴ・パール)のクルシフィクスとしては最も小さな部類に属します。

 より正確に言うと、二十世紀前半から半ばのフランスでは、十字架末端に銀を被せないシンプルな作りの真珠母製クルシフィクスが作られました。そのようなクルシフィクスは小さめで、本品に近いサイズです。しかしながら本品はより古い時代の作例で、この時代の真珠母製クルシフィクスは十字架末端に銀を被せます。十字架末端に銀を被せた十九世紀様式の真珠母製クルシフィクスは、二ほとんどの場合、十世紀のものに比べて格段に大きなサイズです。筆者(広川)がこれまでに扱った同種の品物のなかで、本品は最小の作例です。





 本品の十字架は真珠母から円柱状に削り出したラテン十字で、コルプスとティトゥルスを鋲留めしています。十字架の先端四か所にはキャップを取り付けています。金属製部品は銀製ですが、ポワンソン(仏 poinçon ホールマーク、貴金属の検質印)はありません。この種のクルシフィクスにポワンソンを刻印する場所は十字架上端の環しかありませんが、本品は同種のもののうち最小サイズに作られており、十字架上端の環も小さいので、刻印は省略されています。





 打ち出し細工のコルプス(羅 CORPUS キリスト像)とティトゥルス(羅 TITULUS 罪状書き)は、クロスに鋲留めされています。ティトゥルスとは、"INRI"(Iesus Nazarenus Rex Iudæorum ラテン語で「ユダヤ人の王、ナザレのイエス」の意)と書かれた札のことです。

 十字架の先端四か所には銀製のキャップを被せています。キャップの固定は膠(にかわ)によると思われますが、真珠母の十字架にしっかりと固着しており、緩みは全くありません。十字架末端のキャップは真珠母を衝撃から保護するとともに、コルプスと同じ色がアクセントとなり、クルシフィクス全体を視覚的に引き締めています。





 「真珠母」(しんじゅも)とは真珠貝の貝殻から削り出した装飾材料のことです。写真では分かりづらいですが、肉眼で実物を見ると貝殻に特有の透明感があります。本品の十字架は分厚い一枚の真珠母から削り出してあり、継ぎ目はありません。


 真珠母製の十字架は視覚的に美しいだけでなく、象徴的意味を有します。真珠母(しんじゅも)は真珠貝の貝殻です。しかるに真珠貝が生み出す真珠は、イエス・キリストを象徴します。「マタイによる福音書」十三章四十五節から四十六節に記録されているキリストのたとえ話を、新共同訳によって引用します。

  また、天の国は次のようにたとえられる。商人が良い真珠を探している。高価な真珠を一つ見つけると、出かけて行って持ち物をすっかり売り払い、それを買う。




(上) ein Vesperbild, 14. Jahrhundert, Kunstmuseum Bonn 菩提樹材のピエタ 高さ九十センチメートル ドイツ 十四世紀


 アレクサンドリアのオリゲネス (Ὠριγένης, c. 184 – c. 253) は、このたとえ話の「真珠」がキリストを意味すると解釈しています(「マタイ福音書注解」十巻九節)。真珠がキリストであるならば、真珠を生み出す貝は、聖母マリアに他なりません。したがって真珠母でできた本品の十字架は、受難のイエスを抱く聖母マリアの姿に他なりません。

 十四世紀の西ヨーロッパでは、受難のイエスを抱く聖母像が制作されるようになりました。kれらの図像は「ピエタ」と呼ばれます。「ピエタ」(伊 pietà)とは、イタリア語で「信仰心」という意味です。受難のイエスを抱く真珠母の聖母は、ピエタの図像におけるマーテル・ドローローサです。真珠母の白さは「恋人よ、あなたはなにもかも美しく、傷(羅 MACULA 汚れ)はひとつもない」(「雅歌」四章七節)という「無原罪の御宿り」(IMMACULATA CONCEPTIO) の清浄さを表しています。





 「イエスの母」「無原罪の御宿り」という身分は聖母マリアにのみ当てはまる事柄ですが、その一方で聖母は「キリスト者の鑑(かがみ 手本)」でもあります。聖母は受難のキリストを腕の中に抱きとめましたが、罪あるキリスト者一人一人は聖母に倣ってキリストを抱擁し、心に受け容れて信仰を持ちます。したがって真珠母製十字架が受難のキリストを抱く本品の意匠は、「十字架降架」や「ピエタ」の図像と同様に、キリストを心に受け容れる「信仰」を象徴的に表します。





 上の写真は男性店主の手に載せて撮影しています。本品の実物を女性がご覧になれば、写真で見るよりも一回り大きなサイズに感じられます。

 本品は十九世紀後半から二十世紀初頭のフランスで制作されたものです。フランスをはじめこの時代のヨーロッパでは、富の大半が富裕層に集中していました。たとえば 1910年のフランスにおいて、上位一パーセントの富裕層が富の七十パーセント近くを所有していました。富裕層の範囲を上位十パーセントに広げると、この階層が富の九割を独占し、残りの一割を九十パーセントの国民が分け合う状況でした。「一部の富裕層以外は、全員が下層階級」というように、社会が極端に二極分化していたのです。このような時代に作られた銀無垢製品は、大多数の人々にとって、めったなことでは手に入らない高価な品物でした。本品もそのようなもののひとつであり、本品の元の持ち主にとって、この美しいクルシフィクスが特別な意味を持つ品物であったことを示しています。





 本品は百年ないし百数十年前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にかかわらずたいへん良好な保存状態です。銀製部品にも真珠母製十字架にも破損は無く、鋲やキャップの緩みもありません。特筆すべき問題は何もありません。





本体価格 16,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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