柔らかな金色の光 《デュリュクス》 愛らしい丸みの女性用ドレス・ウォッチ スイス 1960年代後半から 1970年代

DULUX, A Schild cal. 1726, 17 jewels, circa 1965 - 70s



 キャンディーのような形が可愛い女性用時計。およそ五十年前に作られたアンティーク時計で、電池ではなく、ぜんまいで動きます。ケース(時計の本体)は艶(つや)のある金色で、分厚い金張り、またはロールド・ゴールド・プレートです。文字盤は虎目石(タイガー・アイ)のように深みのあるブラウン・ゴールド(茶色がかった金色)です。バンド幅は十四ミリメートルで、お好みの色のバンドを使うことができます。





 時計内部の機械を「ムーヴメント」(英 movement)といいます。ムーヴメントを保護する金属製の筐体(きょうたい)、すなわち時計本体の外側を「ケース」(英 case)といいます。ケースは「ベゼル」(英 bezel)と裏蓋に分かれます。ベゼルはムーヴメントを保護するとともに、風防(いわゆる「ガラス」)を嵌める枠としても機能します。

 本品の風防は「プレクシグラス」と呼ばれる高透明度のアクリル製で、緩やかなドーム状に盛り上がっています。盛り上がった風防は見た目が可愛いですが、平坦な風防に比べて瑕(きず)が付き易いという欠点があり、ガラス製風防の場合に大きな問題となります。一方プレクシグラス製風防は瑕を簡単に磨き落とすことができます。本品にプレクシグラス製風防が採用されているのは、このためです。





 1960年代に作られた女性用時計は、現代のものよりも小さなサイズです。他方、ムーヴメントには或る程度の厚みがあります。したがって現代の時計に比べると、女性用アンティーク時計は厚みがあるデザインに仕上がります。本品はとりわけ丸みを帯びたデザインで、金色のキャンディーのようです。

 三時の位置でケース側面から突出するツマミを「竜頭」(りゅうず)といいます。本品をはじめ、アンティーク時計(ヴィンテージ時計)は「機械式」で、電池ではなく、ぜんまいで動いています。時計のぜんまいを巻き上げるとき、及び時刻合わせを行うときに、竜頭を操作します。竜頭の操作方法はとても簡単です。竜頭を右回りに回転させると、ぜんまいが巻き上がります。竜頭を一段階引き出して右回りまたは左回りに回転させると、針を早回しすることができます。





 時計において、時刻を表す刻み目や数字が配置された板状の部品を「文字盤」(もじばん)または「文字板」(もじいた)、文字盤の周囲十二か所にある「長針五分ごと、短針一時間ごと」の数字を「インデックス」(英 index)といいます。本品の文字盤は 1960年代後半から 1970年代にかけて流行したカラー文字盤で、高級感のある金茶色です。文字盤には放射状のヘアライン加工が施してあり、シルクのように柔らかな光を反射します。

 本品には秒針がありません。また1960年代以降に作られた時計は棒状の「バー・インデックス」を有するのが普通ですが、本品の文字盤にはインデックスがありません。これらはドレス・ウォッチに見られる特徴であり、可愛さと矛盾しない高級感を本品に与えています。愛らしさと優雅さを兼ね備えた花のような時計、あるいは無邪気さと高貴さを兼ね備えた若き王女のような時計です。





 文字盤の上部には小さな文字で「デュリュクス」(DULUX)と書かれています。「デュリュクス」は、スイス北西部トラムラン(Tramelan ベルン県)にあった時計会社ルネ・ジャンドラ(René Gindrat)が、1953年9月17日に商標登録したブランドです。同社は 1986年に解散していますので、「デュリュクス」ブランドの時計の製作年代は 1953年から 1986年までに限られますが、本品はムーヴメントの年代、及びケースと文字盤のデザインから判断して、1960年代後半から 1970年代に作られたと考えられます。

 「デュリュクス」は造語ですが、フランス語で「贅沢な」という意味の「デュ・リュクス」(du luxe)、及び「光ある」という意味の「デュ・リュクス」(du lux)を連想させます。本品はハイ・ジュエル(後述)のドレス・ウォッチですし、ベゼルは金色に輝き、文字盤は柔らかな金の光を放っています。「デュリュクス」は、本品の品質と意匠の特徴を表すのにふさわしいブランド名です。

 アンティーク時計の文字盤は経年によって変色していることが多くあります。本品の文字盤は数十年前に時計が作られたときのオリジナルですが、変色は無く、古い年代を考えると驚くほど綺麗な状態です。並行する曲線状のきずが、九時のあたりに見えます。これは短針が文字盤の表面に接触して、擦(こす)れた跡です。本品の文字盤はアンティーク時計(ヴィンテージ時計)としては十分に綺麗です。また商品写真は実物を大きく拡大していますので、小さなきずが写真がよく判別できますが、肉眼で実物を見ても気になりません。





 本品は秒針を持たず、時針と分針のみを持つ「二針」(にしん)の時計です。二針の時計は、ドレス・ウォッチです。

 現代の時計は「中三針(なかさんしん)式」といって、時針、分針と同じ位置、すなわち文字盤の中央に、秒針が取り付けられています。しかしながら秒針を時針、分針と同じ位置に取り付けるのは技術的に難しいことで、古い時代の時計は、ほとんどの場合、六時の位置にスモール・セカンド(小秒針)を取り付けていました。よほど特殊なものを除いて、懐中時計はみなスモール・セカンド式ですし、1950年代以前の男性用腕時計もスモール・セカンド式です。女性用腕時計に関しては、昔は女性の社会進出が少なかったために、女性用時計に秒針は不要と考えられていました。看護師として活躍する女性は大勢いましたが、医師や看護師はストップ・ウォッチを持っていました。一般女性が使う時計は一円硬貨よりも小さく、そのような時計に小秒針を取り付けるのは困難でもあり、極小の小秒針を仮に取り付けてもどこを指しているのか見分けが付かず、ほとんど用を為しません。それゆえ女性用腕時計には秒針を付けないのが普通でした。

 本品が作られた時代は時計が大型化しつつあり、本品も実用的な秒針を取り付け可能なサイズになっています。それにもかかわらず本品が秒針を持たないのは、時計全体の優雅さが秒針によって損なわれると考えられたからです。上述したように、秒針はもともと実用的な目的を有します。逆に言えば、秒針が無く、文字盤にインデックスも無い本品は、純然たるドレス・ウォッチです。ドレス・ウォッチである本品は、カジュアルな普段着のみならず、ドレス・アップした装いにもよく似合います。

 なお秒針が無ければ動いているかどうかわからないと思われるかもしれませんが、そのような心配は無用です。本品を耳に当てると、機械式時計特有の可愛らしい動作音が「チクタクチクタク…」と聞こえてきます。





 時計を毎日愛用すると、肌に触れるケース裏蓋が摩耗します。これを避けるため、本品のケース裏蓋はステンレス・スティールでできています。手首の丸みに沿うようにカーヴした裏蓋のデザインには、この時計を使う人への配慮が行き届いています。

 ベゼル(ケースの金色の部分)は分厚い金張り、またはロールド・ゴールド・プレートです。金張り、またはロールド・ゴールド・プレートは金の層が分厚く、現代の金めっきに比べて十数倍以上の厚みがあるので、摩耗に強いのが特長です。本品に関しても、数十年前の品物であるにもかかわらず、ベゼルの金はたいへん綺麗な状態です。ベゼルと文字盤、風防も、裏蓋と同様のカーヴを描いています。時計がカーヴしているせいで、小さな時計に一層の厚みが加わって、可愛い丸っこさが強調されています。





 時計内部の機械を「ムーヴメント」(英 movement)といいます。本品のムーヴメント(時計内部の機械)は電池ではなくぜんまいで動いています。電池で動くクォーツ式腕時計が完全に普及したのは、1980年代のことです。本品が製作された時代の腕時計は、ぜんまいで動いていました。

 本品のようにぜんまいで動く時計を「機械式時計」といいます。クォーツ式時計と機械式時計は、耳に当てたときに聞こえる音が全く異なります。秒針があるクォーツ式腕時計を耳に当てると、秒針を動かすステップ・モーターの音が一秒ごとに「チッ」、「チッ」、「チッ」 … と聞こえます。デジタル式など秒針が無いクォーツ式腕時計を耳に当てると、何の音も聞こえません。これに対して機械式時計、すなわち本品のようにぜんまいで動く腕時計や懐中時計を耳に当てると、小人が鈴を振っているような小さく可愛らしい音が、「チクタクチクタクチクタク…」と連続して聞こえてきます。





 上の写真は本品からムーヴメントを取り出して撮影しています。現代のクォーツ・ムーヴメントはプラスチック製ですが、機械式時計のムーヴメントは丈夫な金属で作られています。

 赤く見えるのはルビーです。良質の機械式腕時計、懐中時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはモース硬度「九」と非常に硬い鉱物(コランダム Al2O3)ですので、時計の部品として使用されるのです。本品のムーヴメントには十七個のルビーが使用されています。写真ではルビーが五個しか見えませんが、あとの十二個は機械の裏側(文字盤側)など、上の写真に写っていない部分に使われています。本品のように十七個のルビーを使用した「十七石」(じゅうななせき)のムーヴメントは、摩耗してはならない箇所のほぼすべてにルビーを使用しており、「ハイ・ジュエル・ムーヴメント」(英 high jewel movement)と呼ばれる高級品です。

 本品の製作当時、ハイ・ジュエル・ウォッチの価格は初任給のおよそ三カ月分でした。現代のクォーツ時計に比べるとずいぶんと高価ですが、現在スイスで作られている機械式時計も、価格はやはり数十万円です。ほとんどのクォーツ時計には、実はおもちゃのようなプラスチック製ムーヴメントが入っていて、そのせいで安く手に入るようになったのですが、良質の機械式時計の値段は、昔も今も変わりません。





 本品のムーヴメントは、スイスのア・シールド社が制作した 8 1/2リーニュの円形手巻きムーヴメント、「キャリバー 1726」です。「ア・シールド キャリバー 1726」は、信頼性の高さゆえに女性用アンティーク時計に最も多く採用された機械のひとつ、「ア・シールド キャリバー 970」(AS 970)をさらに改良した機種で、現在(二十一世紀)の機械式時計と同じ技術レベルに到達しています。

 アンティーク時計を実用品として購入するのであれば、ムーヴメントの状態を確かめることが重要です。しかしながらムーヴメントの状態は、時計の外側を見ても分からないのはもちろん、日差を測っても分かりません。時計の寿命に大きく関わるひげぜんまいの状態が悪くても、時計は外見上正常に動くからです。

 当店ではムーヴメントの状態をきちんと把握し、必要な整備を行ったうえで販売していますので、お客様には安心してご購入いただけます。本品のムーヴメントは天符の振り角も大きく、良好なコンディションです。オシドリの嵌まる竜真の窪み、キチ車と鼓車の噛み合わせ部分、裏押さえの腕部分等、消耗しやすい部分にも異常はありません。アンティーク時計はどこの店でもほぼ現状売りで、修理にはなかなか対応してもらえませんが、当店ではアンティーク時計の修理に対応しています。ア・シールド社の各種パーツも豊富に確保しておりますので、ご安心ください。当店の修理対応につきましては、こちらをご覧くださいませ。








 時計とバンドは別々のメーカーが作っていますから、アンティーク時計とバンドの組み合わせに必然性はありません。アンティーク時計に元々取り付けられていたバンドが破損している場合は取り換える必要がありますし、バンドが使える状態で残っているとしても、それは時計をもともと所有していた人が自分のサイズや好みに合うバンドを取り付けたのがたまたま残っているというだけのことです。ですからバンドは自分に合うものを選ぶのが、アンティーク時計との正しい付き合い方です。

 本品に適合するバンドのサイズ(時計に取り付ける部分で測ったバンドの幅)は、十四ミリメートルです。上の四枚の写真は黒以外の革バンドを取り付けて撮影しました。ご購入の際、ご希望の色をお知らせください。

 バンドは消耗品ですから、長く使用していると必ず傷みますが、取り付け部の幅さえ合っていれば、市販のバンドにいつでも交換できます。商品写真は白い革バンドを取り付けて撮影しましたが、他の材質・色に交換しても構いません。バンドに関しては、アンティーク時計も現代の時計も違いはありません。ご安心ください。





 時計は無料でオーバーホール(分解掃除)をした後にお渡しいたします。お買い上げ後も期限を切らずに修理に対応しますので、日々安心してご愛用いただけます。お支払方法は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払いでもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。バンド等付属品に関すること、お支払方法に関することなど、どうぞ遠慮なくご相談ください。





本体価格 88,000円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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