フォトグラヴュア(仏:フォトグラヴュール) photogravure

 フォトグラヴュア (photogravure) は、「光」を表すギリシア語「フォース」(φῶς) の語幹「フォート」(φωτ-) と、「彫刻、製版」という意味のフランス語「グラヴュール」(gravure) を、ギリシア語系合成語に使われる繋ぎの音「オ」(-o-) で接続して作った語で、「光を利用して版を刻む技法」という意味です。フォトエッチング、グラヴュール・ア・ラクアタントともいいます。エッチングやアクアティントと同様に、金属板を酸で腐食させて版を作る技法です。

 光によって硬化する半透過性のゼラチンを金属板に塗り、絵画や彫刻、人物などを、レンズを通して金属板上に投影します。一定の時間露光すると、投影された画像の明るい部分のゼラチンはよく固まり、光の当たり方が少なくなるにしたがって、ゼラチンの硬化の度合いも小さくなります。
 この状態のゼラチンが付いた金属板を酸にさらすと、よく硬化したゼラチンは酸を通さず金属板を保護しますが、ゼラチンが硬化しなかった部分には酸が浸透して金属板を腐食します。このようして凹版を作るのがフォトグラヴュアです。

 フォトグラヴュアは対象を写真的に写し取る技法ですが、非常に明るい部分や非常に暗い部分の明暗の階調を、写真フィルムよりも正確に、無段階的に表現することができます。


 19世紀のフォトグラヴュアは、酸にさらす時間の調整や、金属板表面に塗ったゼラチンの取り扱いに、非常な熟練を要します。また多色刷りができないため、より美しく自然な仕上がりとなるように、酸で腐食させたあとの版にメゾティント、アクアティント、エッチング、エングレーヴィング等で手を加えて完成することも多く行われました。フォトグラヴュアの全工程は手作業によるもので、刷られる作品の数も限られています。


【19世紀のフォトグラヴュアと、現代のフォトグラヴュア】

 現代のフォトグラヴュア(いわゆるグラビア印刷)は「スクリーン・フォトグラヴュア」(screen photogravure) と呼ばれる方法で、英語で「ロトグラヴュア」(rotogravure)、フランス語で「エリオグラヴュール」(heliogravure) ともいいます。

 19世紀の技法と現代の技法は、同じ「フォトグラヴュア」という名前が付いていますが、両者を比べると次のような大きな違いがあります。

・19世紀のフォトグラヴュアは平たい金属の版を使い、シート状の紙に一枚ずつ印刷する。現代のスクリーン・フォトグラヴュア(ロトグラヴュア)はシリンダー状の版を使い、ロール紙に印刷する。

・19世紀のフォトグラヴュアには網点が存在しない。現代のスクリーン・フォトグラヴュア(ロトグラヴュア)は、オフセット印刷と同様に、網点で画像を再現する。

・19世紀のフォトグラヴュアは製版に手作業の要素が多く、刷られる作品の数も限られる。現代のスクリーン・フォトグラヴュア(ロトグラヴュア)は一貫して写真的なプロセスで製版され、産業的に大量に印刷できる。

・なお現代の「グラビア印刷」は、実際にはほとんどがオフセット印刷である。



【拡大画像による比較】

 19世紀のアンティーク・フォトグラヴュアと、高品質のロトグラヴュア(エリオグラヴュール)、通常のオフセット印刷を、それぞれ拡大して比較します。拡大写真は同等の面積を写しており、定規のひと目盛は 1ミリメートルです。


《通常のオフセット印刷の例》

・フランスの雑誌「モード・エ・トラヴォー」 1961年3月号。当店の商品です。






《ロトグラヴュア(エリオグラヴュール)による美術印刷の例》

・ラ・コレクシオン・ゾディアック「トラヴォー・デ・モワ」から、「サントンジュのロマネスク逍遥」。網点が非常に細かく、高品質のグラビア印刷(エリオグラヴュール)です。当店の商品






・現代の美術書に見られる高品質のグラビア印刷。





 同じ本の中身より。非常に細かい網点です。私は強度の近視ですが、肉眼では網点の識別が困難です。




《19世紀のアンティーク・フォトグラヴュアの例》

・ウィリアム・セイント・ジョン・ハーパー (William St. John Harper, 1851 - 1910). による「ダイアナの頭部」。ジョン・キーツの詩集「エンディミオン」("Endymion", 1818) の挿絵として、1888年ないし1889年に製作されたアンティーク・フォトグラヴュア。当店の商品です。



 19世紀のアンティーク・フォトグラヴュアに、網点はもともと存在しません。

 女神の眼のあたり。

 女神の左手親指とアネモネの一部。

 上の写真の左上隅付近。実物の面積を1600倍に拡大しています。やはり網点はありません。




 アンティーク・フォトグラヴュアによる小聖画。20世紀初頭(1909年)のものですが、19世紀と同じ技法で製作されています。当店の商品






 拡大画像による比較は、下の写真の商品解説ページでも行っています。


(下) フランソワ=マリ・フィルマン=ジラール作 「代母の庭」 "Le Jardin de la Marraine" 1875年のサロン出展作 丁寧な仕上げのフォトグラヴュールによる名品






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