月と星座をつかさどる宝石の早見表
* クリソライト (chrysolite) とはギリシア語で「金色の石」という意味で、ペリドットあるいは黄緑色のクリソベリルの古名です。
月ごと・星座ごとの宝石(いわゆる「誕生石」)とは、種々の宝石を一年の月ごとまたは黄道十二宮ごとに割り当てたもので、「ユダヤ戦記」で知られるヨセフス(Titus
Flavius Josephus, 37 - c. 100) や、ウェスパシアヌス、ティトゥス、ドミティアヌス各帝の親戚であったアレクサンドリアの聖クレメンス
(Titus Flavius Clemens, + 95)、ヴルガタ訳聖書で知られる聖ヒエロニムス (St. Hieronymus, c. 347
- 420) の著作にも言及が見られます。
特定の月あるいは星座の下において、宝石は特別な力を発揮するとされていますが、それぞれの月・星座に割り当てられた宝石の種類は、時代や国によって異なります。
【誕生石の歴史】
・聖書における典拠
旧約聖書の出エジプト記にはイスラエル十二部族を表す12個の宝石(*注1)が、また新約聖書のヨハネの黙示録には新しいエルサレムの門の土台となる
12個の宝石(*注2)が登場します。もともと誕生石はこれらの典拠に基づくものでした。
*注1 出エジプト記 28:17 新共同訳 括弧内は筆者
それ(大祭司の胸当て)に宝石を四列に並べて付ける。
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| 第一列 |
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ルビー |
トパーズ |
エメラルド |
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| 第二列 |
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ざくろ石 |
サファイア |
ジャスパー |
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| 第三列 |
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オパール |
めのう |
紫水晶 |
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| 第四列 |
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藍玉 |
ラピス・ラズリ |
碧玉 |
*注2 ヨハネの黙示録 21:19 - 21 新共同訳
都の城壁の土台石は、あらゆる宝石で飾られていた。第一の土台石は碧玉、第二はサファイア、第三はめのう、第四はエメラルド、第五は赤縞めのう、第六は赤めのう、第七はかんらん石、第八は緑柱石、第九は黄玉、第十はひすい、第十一は青玉、第十二は紫水晶であった。また、十二の門は十二の真珠であって、どの門もそれぞれ一個の真珠でできていた。都の大通りは、透き通ったガラスのような純金であった。
・旧約聖書と新約聖書における宝石種の一致
当初、誕生石は出エジプト記の大祭司アロンの胸当てを飾る12個の宝石でしたが、のちの時代にはヨハネの黙示録 21章に記述されている天上の都、「新しいエルサレム」の門を形作る12種の宝石がこれに取って代わり、その順序も黙示録に記述されているとおりとなりました。すなわち四季の始まりである春分がある3月にジャスパーを当て嵌め、サファイア、アゲート、エメラルド・・・がこれに続きました。
なお、新共同訳の日本語による聖句は上記の通りですが、旧約聖書のヘブライ語、および新約聖書のギリシア語における宝石名が、現在のどの宝石名に当たるのか、慎重に検討する必要があります。
G. F. クンツ博士 (George Frederic Kunz, 1856 - 1932) によると、大祭司アロンの胸当ての宝石は、現在の宝石名では次のものにあたります。
カーネリアン、ペリドット、エメラルド、ルビー、ラピス・ラズリ、オニキス、サファイア、アゲート、アメシスト、トパーズ、ベリル、ジャスパー
同じくクンツ博士によると、新しいエルサレムの門の土台と構成する宝石は、現在の宝石名では次のものにあたります。
カーネリアン、ペリドット、エメラルド、ルビー、ラピス・ラズリ、オニキス、サファイア、ひすい、アメシスト、トパーズ、ベリル、ジャスパー
したがって、出エジプト記に現れる12種の宝石と、ヨハネの黙示録に現れる12種の宝石は、日本語訳の聖書ではずいぶん異なるように思えますが、実際には列挙されている順序が異なるだけで、種類はほとんど一致しています。
・月ごと、星座ごとに交替して身に着けるという使い方
古代から中世にかけて愛用された12個の宝石は、現在のような意味の誕生石、すなわち特定の月に生まれた人が、季節にかかわらず常に身に付ける宝石ではありませんでした。古い時代に、身に着ける宝石に対して最も強く求められたのは、宝石がその種類ごとに持つ病気治癒や願望成就の力であって、
月ごとの宝石を、ひとりの人がかわるがわる身に着けていたのです。これは宝石の持つ力が、その宝石に割り当てられた月あるいは星座のときに最も強力に発揮されると考えられたからでした。
宝石の神秘的な力が季節や星座の影響下に発揮されるならば、月や星座が替わるごとに適切な宝石に切り替えるのは、月や星座に関係なく常に同じ「誕生石」を身に着ける現在の習慣に比べて、はるかに合理的であるといえます。
星座の宝石を身に着ける習慣は、16世紀には既に行われていたらしく、カトリーヌ・ド・メディチ (Catherine de Medici, 1519
- 1589) は非常に大きなオニキスを含む12個の宝石で飾ったガードルを所有していました。カトリーヌが所有していた 12個の宝石の種類ははっきりしませんが、その各々には星座の印が刻まれていたといわれています。常に同じジュエリーを身に着けるのであれば、どの星座にも対応できるように
12種の宝石をすべて使うのは賢い方法です。
・宝石種の追加、変更、並べ替え
現在のような意味の、生まれ月に従った「誕生石」が実際に普及し始めたのは、18世紀のポーランドにおいてでした。またこの頃には、出エジプト記にもヨハネの黙示録にも出てこない宝石が追加されました。ルビーとトルコ石がこれにあたります。
ダイヤモンドは長いあいだ宝石とは見なされていませんでしたので、伝統的な誕生石のリストには入っていません。ダイヤモンドがリストに加わったのは 19世紀です。
1912年8月にカンザスシティーで開かれた全米宝石商組合 (the National Association of Jewellers) の会合において、12月の宝石であるルビーを7月に、また7月の宝石であるトルコ石を12月に、それぞれ移すことが決められて、18世紀ポーランドにおける流行へと回帰しました。これはポーランド・リトアニア連合の王室出身で、フランス国王ルイ15世の妃となったマリー
(Maria Karolina Zofia Felicja Leszczynska; 1703 - 1768) の影響により、当時ヨーロッパじゅうに広まった方式です。
さらに、同じ会合において、9月の宝石ペリドットを8月に移してサードニクスの代用とし、4月の宝石であるサファイアが9月に移されました。また 10月の宝石ベリルがその地位を奪われて、替わりにトルマリンとオパールが追加されました。
全米宝石商組合によるこのような改変は数千年来の文化的伝統を無視したものであるとして、宝石研究者から強い批判を受けました。
【附表】
各時代・地域の「月の石」「星座の石」
月ごとに割り当てられた宝石、いわゆる誕生石は、時代や国によって異なります。また、上で述べたように、これらの石は本来
一人の人がかわるがわる身に着けるべきものです。
したがって宝石購入の際には、自分の誕生月の宝石にこだわる必要は無く、自分が心から好きで愛用できるものから優先的に購入してゆくのが、正しい宝石の選び方といえるでしょう。
* クリソライト (chrysolite) とはギリシア語で「金色の石」という意味で、ペリドットあるいは黄緑色のクリソベリルの古名です。
黄道十二宮と、その宝石
月ごとに割り当てられた宝石とは別に、黄道十二宮のそれぞれにも宝石があります。暦法は歴史上たびたび変更されていますから、伝統的な月ごとの宝石を調べるには、通常のカレンダーではなく黄道十二宮を参照するほうがむしろ合理的といえるでしょう。
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1月21日 - 2月19日 |
2月20日 - 3月20日 |
3月21日 - 4月20日 |
4月21日 - 5月20日 |
5月21日 - 6月21日 |
6月22日 - 7月22日 |
| 星座 |
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みずがめ座 |
うお座 |
おひつじ座 |
おうし座 |
ふたご座 |
かに座 |
| 星座の宝石 |
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ガーネット |
アメシスト |
ブラッドストーン |
サファイア |
アゲート |
エメラルド |
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7月23日 - 8月23日 |
8月24日 - 9月23日 |
9月24日 - 10月23日 |
10月24日- 11月22日 |
11月23日 - 12月21日 |
12月22日 - 1月20日 |
| 星座 |
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しし座 |
おとめ座 |
てんびん座 |
さそり座 |
いて座 |
やぎ座 |
| 星座の宝石 |
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オニキス |
カーネリアン |
ペリドット |
ベリル |
トパーズ |
ルビー |
守護天使と、月ごとの宝石
キリスト教では天使は人間に仕える存在で、一人一人の人に、担当の守護天使がいるとされています。これら守護天使と、それぞれの天使の宝石が、月ごとに割り当てられています。
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1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
8月 |
9月 |
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| 守護天使 |
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ガブリエル
Gabriel |
バルキエル
Barchiel |
マルケディエル
Malchediel |
アシュモデイ
Ashmodei |
アムリエル
Amriel |
ムリエル
Muriel |
ウェルキエル
Verchiel |
ハマティエル
Hamatiel |
ツリエル
Tsuriel |
| 守護天使の宝石 |
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オニキス |
ジャスパー |
ルビー |
トパーズ |
ガーネット |
エメラルド |
サファイア |
ダイヤモンド |
ジルコン |
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10月 |
11月 |
12月 |
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| 守護天使 |
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バリエル
Bariel |
アドナキエル
Adnachiel |
フミエル
Humiel |
| 守護天使の宝石 |
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アゲート |
アメシスト |
ベリル |
使徒と、月ごとの宝石
キリストの弟子である使徒に関しても、月ごとの宝石があります。カッパドキアのカイサレア司教アンドレアス (Andreas of Caesarea)
は、その著書「『ヨハネによる黙示録』註解」において、新しいエルサレムの12の門を十二使徒と使徒パウロに割り振り、それぞれの門の土台をなす宝石と使徒を関連付けています。カイサレア司教アンドレアス「『ヨハネによる黙示録』註解」に基づいて作成したリストを下に掲げます。
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1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
8月 |
9月 |
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| 使徒 |
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シモン・ペトロ |
アンデレ |
ヤコブとヨハネ |
フィリポ |
バルトロマイ |
トマス |
マタイ |
アルファイの子ヤコブ |
タダイと呼ばれるユダ |
| 使徒の宝石 |
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ジャスパー |
ガーネット |
エメラルド |
カーネリアン |
クリソライト |
ベリル |
トパーズ |
サードニクス |
ひすい |
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