盛期イタリア・ルネサンスの至宝ともいうべき「椅子の聖母」("Madonna della Sedia") を高浮き彫りで表した作品。「椅子の聖母」はラファエロがその晩年である30歳代前半に制作した油彩板絵で、現在はフィレンツェのピッティ美術館に収蔵されています。
円形の板に描かれた二次元の絵画であるラファエロの原作を、この作品は楕円形のスペースに彫刻しています。ふたつの作品の表現手法は大きく異なりますが、彫刻は三人の姿勢や表情はもちろん、衣の襞(ひだ)や房、織り柄まで原作に忠実に再現されています。下に示す参考画像は
1875年に製作されたスティール・エングレーヴィングで、当店の商品です。
彫刻は楕円形であるために、原作にはない立木で上部の空間を埋める工夫が為されていますが、樹下の三人をあたかも優しく守るようにこの木が描く曲線は、聖母と幼子イエスの体が向かい合って描き出す曲線、すなわち聖母の頭から肩、腕にかけてのラインとイエスの肩から足先のラインによる曲線と相補って、美しい調和を見せています。ラファエロの作品を知らない人が見れば、原作にも立木が描かれているのであろうと思うに違いないほど自然で違和感の無い仕上がりは、この浮き彫りを製作した
19世紀の彫刻家の、優れた芸術的感覚を証しています。聖母の背後に、彫刻家による「D. マリ」(D. MARIE) のサインが刻まれています。
彫刻を保護するフレームは木製で、この時代の類例と同様に黒く塗られています。フレームの前面は外側に膨らんだガラスで保護されています。このガラスは楕円形の板ガラスを、製造直後で熱いうちに枠の上に置き、重力を利用して曲げたものです。
本品はフランス第二帝政期に相当する 1860年代頃に制作された真正のアンティーク美術品です。古い年代にもかかわらず保存状態は良好で、彫刻にも、枠やガラスにも、特筆すべき破損はありません。