59個の真珠母(しんじゅも マザー・オブ・パール)製ビーズに、ブリュ・マリアル(聖母の青 マリアン・ブルー)のガラスで七宝を施したメダイ6枚を加え、この上なく優美なファティマの聖母のロザリオ。小さなメダイを途中に挿入するのは、フランスを中心とするヨーロッパのロザリオによく見られる様式です。
クルシフィクスの十字架はすっきりと直線的なシルエットですが、ナツメヤシの葉を連想させる立体的な彫りがエマイユの下地となる部分に施されており、また四箇所の先端部分付近、及びキリストの後光にあたる部分には、地金を露出させた造形が配されています。十字架の裏面には「ファティマ」(FATIMA)
の文字が記されています。
ビーズはすべて真正の真珠母でできており、たいへん良いコンディションです。スマートで滑らかな樽型に整形されているために、球形ビーズを使用したものに比べ、ロザリオ全体に流麗な優雅さを与えています。
センター・メダルの八角形は、山上の垂訓(マタイによる福音書 5~7章)に述べられた八つの幸福、及び新生あるいは生まれ変わりを表します。表(おもて)面には幼きイエズスの聖テレジアを浮き彫りにし、青色ガラスのエマイユをかけてあります。聖テレジアは薔薇の咲きこぼれるクルシフィクスを胸に抱いています。裏面には、薔薇と、天上に輝く勝利の十字架をあしらいます。もともと五枚の花弁を持つ薔薇は、キリストが受難の際に受け給うた五つの傷を象徴するとともに、聖母マリアの象徴でもあり、また聖テレジアの象徴でもあります。
六枚の小メダイはいずれも六角形で、一方の面にファティマの聖母の横顔を、もう一方の面に聖心を示すイエズス・キリストを、それぞれ浮き彫りにしています。若々しい少女の姿で表された聖母は神に全てを委ね、しっかりと目を見開き、前方を見つめています。後光の周りには放射状の光輝が表現され、正六角形の幾何学的なシルエットと相俟って、この小さなメダイにアール・デコの雅趣を与えています。
本品は20世紀半ばのものです。制作されてから数十年も経っていますが、新品同様のすばらしい保存状態です。クルシフィクス及びメダイのエマイユに剥落は無く、ビーズにも瑕(きず)がまったくありません。