ブルーのアート・ガラス製ビーズを使用したフランスのアンティーク・ロザリオ。
クルシフィクスの十字架はフランスで製作されたものでありながら、ビザンティン美術の組紐文に似たパターンが表面に浮き彫りにされ、東方キリスト教美術の強い影響を感じさせます。聖像表現を忌避する傾向の強いビザンティン彫刻では、極めて少数の例外を除いて丸彫りの像は存在せず、かろうじて許容されていた浮き彫りも、そのほとんどが象徴的なものでした。聖なる空間を象徴する組紐文もそのようなもののひとつであり、聖堂建築の石材を思わせる直線的なシルエットの十字架に彫られた組紐文は、ロザリオを飾る浮き彫りとして、この上なくふさわしい文様といえるでしょう。
円形のセンター・メダルにはヴェールをかぶった若き聖処女マリアの横顔が浮き彫りにされています。伏し目がちのマリアは、受胎を告げた天使ガブリエルの言葉を思い起こして瞑想に耽っているのか、神の声に耳を澄ませているように見えます。
マリアの左肩のうしろに、メダイ彫刻家マッツォーニ (Mazzoni) の署名が刻まれています。マッツォーニはイタリア語の名前ですが、20世紀の前半から中頃にかけてリヨンを拠点に活躍したフランスの彫刻家です。
センター・メダルの裏面には、地上に咲く薔薇と、雲の上すなわち天上にある十字架が浮き彫りにされています。薔薇は聖母マリアの象徴です。かたや十字架はいうまでもなくイエズスの受難の象徴であり、ひいては神の愛と恩寵の象徴です。イエズスの受難は地上で起こったことであるにもかかわらず、これを象徴する十字架を天上に描き、同じ画面の下方すなわち地上に薔薇を配したこのメダイのデザインは、マリアが天使ガブリエルの言葉を受け入れて、「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように。」(ルカによる福音書
1: 38)と答えることにより、恩寵の器 (vase de benediiction) となったことを表しています。
ビーズはアゲート(瑪瑙 めのう)を模したブルーのアート・ガラスでできています。わずかにスミレ色がかったそのブルーは聖母のマントの色であり、フランス語で「ブリュ・マリアル」(bleu
marial マリアの青)と呼ばれて聖母マリアを象徴します。ビーズはすべて揃っています。表面は滑らかで、たいへん良いコンディションです。
このロザリオは数十年前に制作された古い品物であるにもかかわらず、金属部分、ガラス・ビーズとも特筆すべき問題はありません。大切に伝えられてきたロザリオであることがよくわかります。