《神の愛に射貫かれた心臓》と《聖母に倣う信仰》 銀と真珠母による初聖体のブレスレット 銀製メダイを取り付けた大型の作例 有効長 20/23センチメートル


ブレスレットを一直線に伸ばしたときの、メダイを含む全長 二十五センチメートル

手首に装着する際の有効長 二十または二十三センチメートル


ビーズの直径 およそ十二ミリメートル


突出部分を含むメダイのサイズ 24.0 x 20.0ミリメートル


フランス  十九世紀中頃から後半



 真珠母製の大きなビーズを使用した十九世紀のブレスレット型ロザリオ。初聖体の記念に購入された高級な品物で、金属部分は銀製です。





 クルシフィクスの代わりに使われているメダイは銀製で、十弁の花に似た形です。花弁に当たる部分はクール(仏 cœur 心臓、ハート)形で、花弁の外縁、すなわちメダイの縁は丁寧な研磨によって角が取られ、優しい丸みを帯びています。

 クール(心臓)を模る花弁の内部には、トレフル(仏 tréfle 三つ葉、クローヴァー)形の透かしが打ち抜かれています。クールは生命と愛の座であり、トレフルは三位一体を象徴します。それゆえトレフルを打ち抜いた透かし細工のクールは、《神の愛と生命の光に射貫かれた心臓》を意味します。《神の愛と生命の光に射貫かれた心臓》のモティーフは、ベルニーニの彫刻「アビラの聖テレサの恍惚」、あるいは十字架の聖ヨハネの詩「エル・カンティコ・エスピリトゥアル」を思い起こさせます。


(下) Gian Lorenzo Bernini, "L'Estasi di santa Teresa d'Avila", 1647 - 1652, marmo, 350 cm, la Capella Cornaro, Chiesa di Santa Maria della Vittoria, Roma




 花弁に囲まれた円形の中央部には聖体と聖杯、小麦と葡萄が浅浮き彫り状に打刻され、エウカリスチアの神秘を象徴しています。聖体はもはやパンではなく、キリストの御体となっています。聖血はもはやワインではなく、キリストの御血となっています。浮き彫りの背景は魚子(ななこ 布目状の細かい凹凸)によって艶消し処理されているため、聖杯の上に浮遊するキリストの御体は太陽のように見えます。太陽は光と熱の源であり、地上に生命を与えます。それと同様にキリストの御体なる聖体は智と愛の源であり、人に生命を与えるのです。


 小麦の茎の下方に見える「ア・ペ」(AP)のモノグラムは、メダイユ工房プルヴォスト社(Les établissements Prouvost, Ets. Prouvost)のマークです。プルヴォストは 1844年に創業し、現在まで存続しているメダイユ工房で、フランス北東端リール近郊の小都市トゥルコワン(Tourcoing オー=ド=フランス地域圏ノール県)にあります。





 本品のビーズはフランス語でナークル(仏 nacre)と呼ぶ真珠母でできています。真珠母(しんじゅも マザー・オヴ・パール)は真珠を作る母貝の殻で、ラブラドレッセンスあるいは正長石(オースクレーズ、ムーンストーン)のシーンに似た深みのある輝きを有します。

 本品には十二個のビーズがあって、いずれも球形に近い形にカットと研磨が施されています。主の祈りのビーズと天使祝詞のビーズに大きさの差はありません。十二個のビーズはひとつひとつ手作業で作られているゆえに、形とサイズにばらつきがあります。またそれぞれのビーズには、部分的な亀裂や表面が粗い部分等、天然素材ゆえの個性があって見飽きません。

 それぞれのビーズの両側には、繊細な意匠の銀製キャップが付いています。銀製キャップはフルール・ド・リスまたはパルメット様(よう)意匠を銀板に打ち出し、さらに透かしを打ち抜くことで、銀線細工を模しています。銀製キャップはフランス製アンティーク・ロザリオのなかでも特に高級なものに見られますが、通常は主の祈りのビーズのみに取り付けられます。しかるに本品ではすべてのビーズに銀製キャップが取り付けられており、上質の作りが産む落ち着きと、品の良い華やぎを感じさせます。





 キリスト教の象徴体系において、真珠はキリスト自身の象徴であり、キリストの属性である生命の象徴、あるいは救い、神の恩寵の象徴でもあります。これに対して真珠を生み出す真珠貝あるいは真珠母はテオトコス、すなわちキリストを産んだ聖母の象徴に他なりません。マリアは受胎告知を受け容れて救い主を生み、罪びとに救いをもたらしました。それゆえ真珠を救いや神の恩寵の象徴と考えても、真珠をもたらす真珠母は、恩寵の器(恩寵の通り道)なるマリアを表すことになります。




(上) 花嫁のドレスの少女 セルロイドと紙人形による初聖体のカニヴェ 46 x 79 mm フランス 1890 - 1910年代頃 当店の商品です。


 フランスの子供たちは初聖体の際、真珠母製のものをはじめ、白いロザリオを持つことが多くあり、本品も初聖体の機会に購入された品物と思われます。初聖体の白いロザリオは子供の純潔を表すとされていますが、白いガラスではなく真珠母でできたロザリオの場合、そのビーズは子供の純潔を表すとともに、聖母マリアを表しています。聖母はキリスト者の鑑(かがみ 手本)ですから、真珠母を使ったロザリオは、聖母に倣う信仰を象徴すると言えます。

 なお初聖体のブレスレット型ロザリオは、たいていの場合、十一、二歳の子供の手首に合わせて制作されているゆえに、大人が身に着けるには短い場合が多いです。しかるに本品は二段階の有効長があり、二十センチメートルもしくは二十三センチメートルと、大人でも無理なく手首に付けることができるサイズです。







 上の写真は本品が二箇所に有する品位証明印で、いずれも蟹を模ります。

 造幣局等の検質所では貴金属の純度を検査して、品位証明印(ホールマーク)を刻印します。1838年から 1972年までのフランスにおいて、純度八百パーミル(800/1000 八十パーセント)の国産銀製品には、「イノシシの頭」または「蟹」を模る品位証明印が刻印されていました。前者はモネ・ド・パリ(仏 la Monnaie de Paris パリ造幣局)で検質された品物の刻印、後者はモネ・ド・パリ以外の検質所で検質された品物の刻印です。

 純度八百パーミルの銀は、アンティーク・ロザリオやアンティーク・メダイなど、古いフランスの信心具に使われる最も高級な素材です。本品は十九世紀の品物ですが、第一次世界大戦以前のヨーロッパでは富の大半が富裕層に集中し、一部の富裕層以外は全員が下層階級と言っても過言ではありませんでした。十九世紀の庶民にとって、本品のような銀無垢製品は入手困難な高級品でした。それゆえ本品は特別な機会に贖われた品物であり、保存状態の良さからも大切に伝えられてきたことが分かります。





 本品の装着時の長さは、約二十三センチメートルまたは二十センチメートルの二通りです。スプリング式の留め金を、メダイ上部に取り付けた環に繋いだ場合は二十三センチメートル、最初のビーズの次にある大きめの環に繋いだ場合は二十センチメートルです。





 このブレスレットは百数十年前にフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にもかかわらず、保存状態は良好です。古いロザリオやブレスレットはチェーンが摩耗し細くなっている場合がありますが、本品のチェーンは良い状態で、日々安心してご愛用いただけます。特筆すべき問題は何もありません。





本体価格 24,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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