十九世紀のフランスで制作されたと考えられるアンティーク・シャプレ。鎖と十字架は真鍮でできています。コルプス(キリスト像)はブロンズ製で、十字架に鑞(ろう)付けされています。もともとコルプスに掛けられていた金めっきは、大部分が剥がれています。本品シャプレはたいへん稀少な種類で、通常のシャプレとは珠の数が異なります。筆者(広川)は長年に亙ってフランス製シャプレを扱っていますが、本品と同種のものを見たことがありません。珠は手作りゆえに形が歪(いびつ)で、一つ一つが丁寧に磨かれています。
本品に使用されている珠は、直径約 6.5ミリメートルのものが十七個、直径 8.2ミリメートルのものが一個で、いずれも牛骨製と思われます。直径
8.2ミリメートルの球には六個の同心円状彫刻が赤道上に並びます。
環状のシャプレ(仏 un chapelet 数珠)を、フランス語でクーロンヌ(仏 une couronne)と呼びます。シャプレの機能は仏教の数珠と同様で、同じ祈りを繰り返す際、回数を数えるために使います。クーロンヌは環状であるゆえ、所定の回数の祈りを唱えたことが分かるためには、他の珠よりも大きな珠を挟む必要があります。十九世紀後半になると大きな珠の代わりにクール(仏
le cœur センター・メダル)が使用されるようになりますが、本品シャプレは十九世紀中頃に制作されていますので、メダイユ状のクールではなく、一回り大きな珠が使用されています。
本品の保存状態は極めて良好で、特筆すべき問題は何もありません。コルプスは緩みなくしっかりと鑞(ろう)付けされています。鎖の各部にも、クルシフィクスをシャプレに取り付ける針金にも、摩耗で弱くなった部分はありません。珠の状態も良好です。