祈祷書はモロッコ革に金箔を押し、天地小口にも金箔、見返しにはマーブル紙を使用しています。扉の向かいは J. L. ブゾン (Joseph Beuzon
et Louis Beuzon, fl. 1896 - 1935) の署名がある作品のタイポグラヴュア(下の写真)で、復活したイエズスがエマオに向かうふたりの弟子に現れた場面(ルカによる福音書
24:13 - 35)が描かれています。
扉と本文を囲む絵もおそらくブゾンによるものです。扉には祈祷書の表題と出版社名を囲むように、四人の福音記者を象徴する生き物の絵を配しています。聖マタイ (St. Matthieu) は人間、聖マルコ (St. Marc) はライオン、聖ルカ (St. Luc) は牛、聖ヨハネ
(St. Jean) は鷲の図像で表されています。
本文においては、四人の福音記者のそれぞれに因んだ絵が、ページごとに交替して描かれています。聖マタイのページには、徴税人であったマタイをイエズス・キリストが召命するシーン(マタイによる福音書
9: 9 - 13 他)が描かれ、その下には扉にあったのと同じ「人間」(聖マタイの象徴)の絵と、聖マタイの名前が書かれています。(下の写真の右側)
聖ヨハネのページには、主が特に愛された弟子であった青年ヨハネが最後の晩餐の席で主の隣に座り、まもなく弟子の一人に裏切られるという予告をした主イエズスに向かって、「それは誰のことですか」と問うシーン(ヨハネによる福音書
13: 25)が描かれ、その下には扉にあったのと同じ「鷲」(聖ヨハネの象徴)の絵と、聖ヨハネの名前が書かれています。(上の写真の左側)
聖マルコは聖パウロが異邦人に伝道するのに付き従いました。聖マルコのページには、ローマらしき都市のフォルム(広場)で福音を語る聖パウロが描かれ、その後ろに聖マルコらしき姿が見えます。その下には扉にあったのと同じ「ライオン」(聖マルコの象徴)の絵と、聖マルコの名前が書かれています。(下の写真の左側)
聖ルカのページには、画家であったと伝承される聖ルカが聖母の絵を描いているシーンが描かれ、その下には扉にあったのと同じ「牛」(聖ルカの象徴)の絵と、聖ルカの名前が書かれています。(上の写真の右側)
ピンクを基調とした小さめのロザリオは、美しいアート・ガラスのビーズを使用しており、珍しい 4連のものです。ビーズは手作りで、ひとつひとつ手作業でカットされています。センター・メダルは直線的デザインを基調とした左右対称のアール・デコ様式で、表(おもて)面に聖母の横顔を、裏面には聖心を指し示すイエズス・キリストを浮き彫りにしています。聖母の横顔の下に「フランス」(FRANCE)
の刻印があります。
この祈祷書とロザリオのセットは 7七十以上前に出版されて以来、ずっとフランスにありました。途中、第二次世界大戦をくぐり抜けてきたにもかかわらず、驚くほど良い状態で保存されています。祈祷書、ロザリオとも、特筆すべき問題はありません。