天の元后 レーギーナ・カエリー、レーギーナ・コエリー、レジナ・チェリ
REGINA CÆLI, REGINA CŒLI





(上) O. リュフォニー作 「レーギーナ・カエリー (天の元后)」 金無垢ペンダント フランス製アンティーク  19世紀後半から20世紀初頭 当店の商品です。


 「レーギーナ・カエリー REGINA CÆLI」(または「レーギーナ・コエリー REGINA CŒLI」)はラテン語で「天の元后」すなわち「天の女王」という意味です。「レーギーナ・カエリー」は聖母マリアの称号のひとつであり、12世紀まで遡ることができる古い「マリアのアンティフォン(交唱)」のひとつです。

 なお「レーギーナ・カエリー」を「天の元后」と訳する場合、「后」(レーギーナ)とは王の妻のことではなく、王の母を指します。(列王記上 15:13参照) その場合の「王」は、キリストのことです。


【聖務日課における位置付け】

 修道院において決まった時刻に行われる日々の祈りを「聖務日課」といいますが、日々の聖務日課を締めくくる「終課」の終わりには、マリアを称える四種類のアンティフォン(antiphon 交唱)のうちいずれかが唱えられます。唱えられるアンティフォンの種類は、一年の時期によって下記のように替わります。


    アンティフォンのラテン語名と読み方   意味   唱えられる時期
             
    ALMA REDENPTORIS MATER
(アルマ・レデンプトーリス・マーテル)
  救い主を育て給うた御母よ   待降節第一主日から
主の奉献の祝日(2月2日)まで
    AVE REGINA CÆLORUM
(アウェ、レーギーナ・カエロールム)
  めでたし諸天の元后   主の奉献の祝日(2月2日)から
聖木曜日(復活祭直前の木曜日)まで
    REGINA CÆLI
(レーギーナ・カエリー)
  天の元后   聖土曜日(復活祭直前の土曜日)から
聖霊降臨の主日まで
    SALVE REGINA
(サルウェ、レーギーナ)
  挨拶を送ります。元后よ   聖霊降臨の主日の次の土曜日から
待降節第一主日の前の金曜日まで


 上の表でお分かりいただけるように、「復活祭直前の土曜日」から「聖霊降臨(ペンテコステ、五旬節)の日曜日」までの聖務日課において、終課の終わりに「レーギーナ・カエリー」が唱えられます。

 なお「カエリー」(CÆLI 「天の」)は単数属格、「カエロールム」(CÆLORUM 「諸天の」)は複数属格です。ラテン語辞書の見出しに載っている語形は単数主格で、「カエルム」(CÆLUM 「天は」「天が」)です。



【「レーギーナ・カエリー」の内容】

 中世以来伝わる「レーギーナ・カエリー」の内容は次のとおりです。原文はラテン語で、日本語訳は筆者(広川)によります。

    REGINA CÆLI, LÆTARE, ALLELUIA,
QUIA QUEM MERUISTI PARTARE, ALLELUIA,
RESURREXIT, SICUT DIXIT, ALLELUIA.
ORA PRO NOBIS DEUM, ALLELUIA.
  天の元后よ、喜び給へ。ハレルヤ。
御身産むを許され給ひし御子の、ハレルヤ、
自ら言ひ給ひしごとくに蘇へり給へばなり。ハレルヤ。
我らがために神に祈り給へ。ハレルヤ。
     
    GAUDE ET LÆTARE, VIRGO MARIA, ALLELUIA.
QUIA SURREXIT DOMINUS VERE, ALLELUIA.
  喜び給へ、おとめマリアよ。ハレルヤ。
主、まことに蘇へり給へばなり。ハレルヤ。
     
    OREMUS.
DEUS, QUI PER RESURRECTIONEM FILII TUI,
DOMINI NOSTRI JESU CHRISTI,
MUNDUM LÆTIFICARE DIGNATUS ES:
PRÆSTA, QUÆSUMUS,
UT PER EJUS GENTRICEM VIRGINEM MARIAM,
PERPETUÆ CAPIAMUS GAUDIA VITÆ
PER EUNDEM CHRISTUM DOMINUM NOSTRUM.
AMEN.
  我ら祈るべし。
我らが主なる御子
イエズス・キリストが復活によりて、
畏くも世を喜ばせ給へる神よ。
イエズスを産み給ひしおとめマリアを通し、
永遠の命なる喜びを得べく、
まさに我らが主キリストによりて
(道を)示し給へ。
アーメン。


 カトリック教会のアジョルナメント(aggiornamento イタリア語で「時代に合わせること」「現代化」)を目指した教皇ヨハネス23世 (Johannes XXIII, 1881 - 1958 - 1963) は、1962年、第二ヴァティカン公会議 (CONCILIUM VATICANUM SECUNDUM) を招集しました。教皇は翌1963年に亡くなって公会議は中断しましたが、次のパウルス6世 (Paulus VI, 1897 - 1963 - 1978) は即位後すぐに公会議の継続を宣言し、1965年に無事閉会しました。

 カトリック教会のアジョルナメントという課題を前任者から引き継いだパウルス6世は、任期を通じてこれに取り組み、典礼の在り方を大きな規模で見直しました。「レーギーナ・カエリー」に関しても、パウルス6世による改革の結果、現在では最初の四行(すなわち "ORA PRO NOBIS DEUM, ALLELUIA." まで)のみが唱えられています。


(下) ジャン=バティスト・エミール・ドロプシ作 「レーギーナ・カエリー (天の元后)」 ブロンズ製の美術メダイユ 19世紀後半から20世紀初頭 当店の商品です。





【「レーギーナ・カエリーの綴りと発音について】

 古典ラテン語で「天」(単数形)は「カエルム」(CÆLUM) ですが、中世には「コエルム」(CŒLUM) という綴りもよく行われました。「コエルム」(CŒLUM) はギリシア語の形容詞「コイロス」(κοῖλος, -η, -ον koilos 「中空の」)に影響された語形です。ギリシア語「コイロス」の中性単数主格・対格形は「コイロン」(κοῖλον) で、これをラテン語式に表記すると「コエルム」(CŒLUM) となります。(註1)


 なおわが国において「レーギーナ・カエリー」「レーギーナ・コエリー」を「レジナ・チェリ」と表記しているのをときどき見かけますが、これは中世ガリアの発音を写しています。「チェリ」という発音において、「カエリー」「コエリー」の二重母音はひとつの母音「エ」に変化しています。

 二重母音「アエ」(羅 Æ)または「アイ」(希 αι)、「オエ」(羅 Œ)または「オイ」(希 οι)において、「ア」「オ」の調音点は「エ」「イ」に牽引されて前寄りになり、結局ひとつの母音「エ」(e) に変化します。これはヨーロッパの言語に広く見られる現象で、ドイツ語のウムラウトはたいへん分かり易い例です。

 
    音韻と表記の変化
    ... ..
    A Umlaut ae → aの上にe → ä  JUBILAEUM (ユビラエウム) → das Jubiläum (ユビレーウム) 祝祭 
    O Umlaut oe → oの上にe → ö  οἰκονομία (オイコノミア) → die Ökonomie (エコノミー) 経済 




註1 ギリシア語とラテン語はいわば兄弟のような関係にある同系統の言語であり、文法体系、音韻体系、語彙に多くの共通点があります。ギリシア語の二重母音「アイ」(αι)、「オイ」 (οι) はラテン語の二重母音「アエ」(Æ)、「オエ」(Œ) にそれぞれ対応します。実体詞(名詞と形容詞)の語尾に関しては、ギリシア語の「-オス、-エー、-オン」(-ος, -η, -ον) はラテン語の「-ウス、-ア、-ウム」(-US, -A, -UM) にそれぞれ対応します。



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