クロワ・カマルゲーズ (カマルグ十字) croix camarguaises





 スイスのローヌ氷河に発してレマン湖を経、フランス南東部を流れるローヌ河は、地中海に注ぎ込む直前、アルルでル・グラン・ローヌ (le Grand Rhone 大ローヌ) とル・プチ・ローヌ (le Pertit Rhone 小ローヌ) に分かれます。この二つの流れに挟まれた広大な三角州がラ・カマルグ (la Camargue) で、フランス国土を六角形に見立てると、地中海に面する辺のちょうど中ほどに位置します。

 カマルグは西ヨーロッパ最大のデルタであり、塩湖に集まるヨーロッパフラミンゴをはじめとする特有の動植物相を有します。カマルゲと呼ばれる白馬に乗ったガルディアン(gardien 牧童)が牛を放牧しており、風光明媚な保養地でもあります。

 カマルグの歴史的遺産として最も有名なのは、サント=マリ・ド・ラ・メールのバシリカ (la Basilique des Saintes-Maries) です。この聖堂はマグダラのマリアたちが上陸した聖地として知られ、年に一度、ヨーロッパじゅうからジタン(ジプシー)が集うことでも有名です。


【ラ・クロワ・カマルゲーズ(カマルグ十字)について】


 ラ・クロワ・カマルゲーズ(croix camarguaises カマルグ十字)、あるいはラ・クロワ・ガルディアーヌ(la croix gardiane ガルディアンの十字架)と呼ばれるこの十字架はカマルグの象徴で、信仰(フォワ foi)を表すクロス、希望(エスペランス esperance)を表す錨、愛(シャリテ charite)を表すハートを組み合わせています。(註)

 ラ・クロワ・カマルゲーズ(ラ・クロワ・ガルディアーヌ)は、カマルグのガルディアンにシンボルが必要だと考えたフォルコ・ド・バロンチェリ=ジャヴォン (Falco de Baroncelli-Javon, 1869 - 1943) が、友人の画家パウル・ヘルマン (Paul Hermann, 1864 - 1940) に依頼して、1924年に考案されたものです。パウル・ヘルマンはドイツ生まれですが、アンリ・エラン (Henri Heran) と名乗ってパリで活躍した人で、ムンクの友人でもありました。三叉に分かれた先端部はガルディアンの使う突き棒を象っていますが、この部分はサント=マリ=ド=ラ=メールの鍛冶職人ジョゼフ・バルバンゾン (Joseph Barbanson) が1926年に発案したものです。ラ・クロワ・カマルゲーズは教会の典礼の中で何らかの地位を有する信心具ではなく、キリスト教ジュエリーであるクロワ・ド・クゥのひとつと考えることができます。




(上) フォルコ・ド・バロンチェリ=ジャヴォン(手前)と、ガルディアン

 ちなみにフォルコ・ド・バロンチェリ=ジャヴォンはジャヴォンの子爵位を有していましたが、自身もガルディアンであり、プロヴァンス語による作家でもありました。フォルコの弟ジャック (Jacques de Baroncelli, 1881 - 1951) は映画監督として、また妹マルグリット (Marguerite de Baroncelli-Javon) はプロヴァンス語文学振興のためにフレデリック・ミストラルらが創始したル・フェリブリージュ (le Felibrige) 運動への参画によって知られています。



註 十字架・錨・心臓は、信仰・希望・愛を、それぞれ象徴的に表します。

 十字架が信仰の象徴であることは、説明不要でしょう。錨が希望を象徴するのは、下に示した「ヘブライ人への手紙」6章 19節の聖句によります。

 わたしたちが持っているこの希望は、魂にとって頼りになる、安定した錨のようなものであり、また、至聖所の垂れ幕の内側に入って行くものなのです。 (新共同訳)

 「錨」は「魚」や「善き羊飼い」と並んで、初期キリスト教徒に最も愛用された象徴的図像のひとつです。下の写真はローマの聖セバスティアヌスのカタコンベに見られるキリスト教徒の線刻で、墓碑銘 (ATIMETVS AVG VERN VIXIT ANNIS VIII MENSIBVS III EARINVS ET POTENS FILIO) の左に錨、右に魚を刻んでいます。




 ちなみに魚はキリストの象徴ですが、これは「イエズス・キリスト、神の子、救い主」というギリシア語のフレーズにおいて、各単語の頭文字を並べると、「魚」(イクテュス)という単語ができることによります。

 愛が心臓形(ハート形)で表されるのは、かつて魂が心臓に宿ると考えられていたからです。

 信仰と希望と愛はキリスト教における三つの枢要徳であり、いずれも大切な徳目ですが、この中で最も大切なのは愛です。使徒パウロは「コリントの信徒への手紙一」13章 13節において、次のように書いています。

 信仰と、希望と、愛、この三つは、いつまでも残る。その中で最も大いなるものは、愛である。 (新共同訳)




関連商品

 クロワ・カマルゲーズ

 フェーヴ「ラ・カマルグ」 8点揃




十字架 クロスとクルシフィクスに関するレファレンス インデックスに戻る


信心具に関するレファレンス インデックスに移動する


キリスト教に関するレファレンス インデックスに移動する


キリスト教関連品 商品種別表示インデックスに移動する

キリスト教関連品 クロスとクルシフィクス 一覧表示インデックスに移動する



アンティークアナスタシア ウェブサイトのトップページに移動する




Ἀναστασία ἡ Οὐτοπία τῶν αἰλούρων ANASTASIA KOBENSIS, ANTIQUARUM RERUM LOCUS NON INVENIENDUS