


極稀少品 バック通りとラ・サレットにおける聖母の御出現 パリ、ヴァシェットのブロンズ製メダイ
21.2 x 14.6 mm (突出部分を含む)
1848 - 1857年 フランス
19世紀半ばのパリで、有名なメダイユ工房ヴァシェットが製作したブロンズ製メダイ。19世紀のフランスで多発した聖母出現を採り上げながらも、二面のテーマが異なる稀少品です。
メダイの一方の面には、蛇を踏みつけて球体の上に立つ無原罪の御宿りが表されています。
聖母の足下に 1830の年号が刻印されていることから、これがバック通りの聖母(不思議のメダイの聖母)であることがわかります。
聖母に執り成しを求めるフランス語の祈りの言葉が、聖母を取り巻くように刻まれています。
O
Marie, concue sans peche, priez pour nous qui avons recours a
vous. 罪無くして宿り給えるマリアよ、御身を頼みとする我等のために祈りたまえ。

19世紀のフランスではメダイが盛んに製作されましたが、これらはフランスで最も発達した美術メダイユの流れを汲むものであり、その製作技術には驚くべきものがあります。
たとえば下の写真において定規のひと目盛は1ミリメートルで、実物の面積を百倍以上に拡大しています。
バック通りの聖母は身長1センチメートルあまり、顔や手のサイズはおよそ1ミリメートル、文字の大きさは1ミリメートル未満です。
このように小さなサイズにもかかわらず、衣の襞や手足の指は大型彫刻と同様に丁寧に刻まれており、極小の文字と数字もすべて判読可能です。

メダイのもう一方の面には、1846年9月19日にフレンチ・アルプスの村ラ・サレットに出現した聖母と、
聖母の話を聴くふたりの子供たち、当時15歳であった牛飼いの少女メラニー・カルヴァと11歳の牛飼いの少年マクシマン・ジローの姿が刻まれています。
キリスト受難の道具を伴う特徴的な十字架を身に着けた聖母は、少年マクシマン・ジローとともに岩に腰掛け、祝福するような動作で左手を挙げて、マクシマンに視線を注いでいます。
マクシマンは両腕を交差させて胸に当て、少女メラニー・カルヴァは聖母の前に跪いて、祈りの姿勢を執っています。

この光景を取り巻くように、聖母に執り成しを求める祈りの言葉がフランス語で記されています。
Mere
de Dieu, priez pour nous. 神の御母よ、われらのために祈りたまえ。
「神の母」は聖母マリアの称号の一つで、天使祝詞(アヴェ・マリア)にも出て来ます。
下の写真は実物の面積をおよそ百倍に拡大しています。定規のひと目盛は1ミリメートルです。
三人の人物の表情、手の指、聖母の体から発出する天上の光、聖母の冠、聖母が首に掛けたアルマ・クリスティ(受難の道具)の十字架などの細部が判別できます。
人物の顔はいずれも直径1ミリメートルほど、子供の身長は6ミリメートル、腰掛けた聖母の高さは7ミリメートルです。

メダイの最下部にはフランス語で「1846年9月19日の御出現」(Apparition
de 19 septembre 1846) と記されています。
「9月」(septembre) を "7re"
と表記しているのは、ローマ暦においてこの月が本来第七の月 (SEPTEMBER MENSIS) であったからです。"SEPTEM"
はラテン語で「七」を表します。
すなわち、ユリウス暦が制定される以前に使用されていたローマ暦では、一年のうち日付があるのは10か月、304日で、残りの61日には日付がありませんでした。
現代の暦の7月と8月は、それぞれユリウス・カエサル、アウグストゥスを記念して、後からローマ暦に挿入されたものです。
なお後代のメダイで普通に使われる「ラ・サレットの聖母」(Notre-Dame de la Salette) という表現は、このメダイではまだ使われておらず、
本品の製作時期が、ラ・サレットにおける聖母出現からあまり時間が経たない時点であることを示唆しています。
より具体的には、ラ・サレットの出来事を真正の聖母出現とする報告書が教皇ピウス9世 (Pius IX, 1792 - 1878) に提出され、教皇庁がその内容を承認したのが、1848年8月です。
本品はこの時点からあまり時間が経たずに製作されたものであるはずです。
この製作年代はラ・サレットのメダイとして最初期のものであり、本品は早くも1860年代のメダイに見られる定型化を免れています。
メダイの右端、少女メラニー・カルヴァの後ろに「ヴァシェット」(Vachette)
の刻印があります。
ヴァシェットはパリの金銀細工工房で、1832年6月30日、不思議のメダイ500枚を初めて製作したことで知られています。
このメダイの製作時期は、1848年から57年に至る十年間の、いずれかの年です。
19世紀におけるフランス・キリスト教界最大の出来事、ルルドにおける聖母出現(1858年)は、このメダイが製作された時点ではまだ起こっておらず、
いまではルルドの陰に隠れて半ば忘れられているラ・サレットの聖母出現が大きく取り上げられています。
聖母出現のメダイは多数製作されていますが、本品はふたつの出来事を一枚のメダイに刻んだ点が珍しく、
また「バック通りの聖母とラ・サレットの聖母」という組み合わせが、1848年から57年という時期にのみ実現し得たものであるという点でも、稀少な作例となっています。
16,800円
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