稀少品 リュドヴィク・ペナン作 ゴシック式の大型メダイ 「聖なる師父ベネディクトゥスの十字架」 ブロンズ製 直径 33.0 mm


突出部分を除く直径 33.0 mm

フランス  1860年代



 西ヨーロッパの修道制度の創始者として、中世以降のキリスト教史に大きな足跡を残した聖人、ヌルシアのベネディクトゥス (St. Benedictus de Nursia, c. 480 – c. 547) のメダイ。19世紀フランスを代表するカトリックのメダイユ彫刻家リュドヴィク・ペナン (Ludovic Penin, 1830 - 1868) がゴシック様式に基づいてデザインし、ブロンズを用いて鋳造したたいへん立派な作品です。





 表(おもて)面には、紡錘形の画面をメダイの縦いっぱいに設け、聖ベネディクトゥスの全身像を浮き彫りにしています。剃髪し修道衣を着た修道院長聖ベネディクトゥスは、右手に長い十字架、左手に聖ベネディクトゥス会則を持ち、前方をしっかりと見据えて立っています。聖人の向かって左には、修道院長のミトラ(帽子)と牧杖が刻まれています。紡錘形の枠にはラテン語で「聖なる師父ベネディクトの十字架」(CRUX SANCTI PATRIS BENEDICTI) と書かれています。

 足許の向かって右側には、毒入りのパンを咥えたカラスが刻まれています。伝説によると、聖人を妬む者が聖人のパンに毒を入れましたが、烏がそれを咥えて遠くに捨てたことで、聖人は難を逃れました。

 その右側には十字と杯、杯から這い出す毒蛇が彫られています。伝説によると、聖ベネディクトゥスに敵対する者が聖人の飲み物に毒を入れたのですが、聖人が十字を切ると、杯が粉々に砕けたと伝えられています。





 修道院長聖ベネディクトゥスは堂々たる体躯の威厳ある人物として表され、あたかも天地を繋ぐように、メダイの上下いっぱいに、両足をしっかりと踏みしめて立っています。聖ベネディクトゥスは6世紀、すなわち千数百年前に生きた人であり、どのような容姿の人物であったのかが分かる肖像画等は残っていません。実際のところは小柄な人物であったかもしれませんし、厳しい戒律にしたがって生きた修道士ですから、きっと痩せていたことでしょう。それにもかかわらず聖ベネディクトゥスは、その後の西ヨーロッパ史に深い影響を及ぼした精神的巨人であるゆえに、この作品において堂々とした人物に描かれています。これはメダイユ彫刻家リュドヴィク・ペナンによる創意であり、このメダイが信心具としての定型を守りつつも、本来目に見えない「信仰の強さ」や「精神的偉大さ」の可視化、形象化として、芸術の名にじゅうぶん値する作品であることを示しています。





 メダイ裏面に書かれた文字が何を表すのか、長い間謎でしたが、1415年の写本が1647年にバイエルンのメッテン修道院で発見され、その意味が明らかになりました。まず、十字架上のイニシアル9文字が表すのは次の言葉です。

  CRUX SACRA SIT MIHI LUX. NUNQUAM DRACO SIT MIHI DUX.  聖なる十字架が我が光であるように。竜(悪魔)が我が導き手となることが決して無きように。

 メダイの上部のギリシア文字「イオタ・エータ・シグマ」(IHS) は、ギリシア語「イエースース」(イエズス)を表します。周囲のイニシアルが表すのは次の言葉です。

  VADE RETRO SATANA. NUNQUAM SUADE MIHI VANA. SUNT MALA QUAE LIBAS. IPSE VENENA BIBAS.  退けサタン。虚しき事で我を誘うな。汝が我に与うるは悪しき物なり。汝自身が毒を飲め。

 十字架の背景にある4文字のイニシアル C. S. P. B. は「聖なる師父ベネディクトの十字架」(CRUX SANCTI PATRIS BENEDICTI) を表します。メダイユの下部に彫刻家の署名(L. PENIN A LYON リヨンのリュドヴィク・ペナン)があります。



 メダイユの制作方法には、「打刻」と「鋳造」の二通りがあります。「打刻」は貨幣のように大量の製造が必要である場合の方法で、19世紀フランスのブロンズ製メダイは、大抵の場合、打刻によって作られています。「打刻」はスクリュー・プレスを使って効率的に作業を進めることができますが、浮き彫りの立体性は得られません。

 これに対して「鋳造」によるメダイユの場合、「打刻」のメダイユよりもいっそう芸術的完成度が高い鋳型を彫刻する必要があります。また融けた金属を鋳型に流し込み、冷えるのを待って取り出したメダイユは、やすりがけや彫金、薬品による表面処理等の工程を経て、ようやく完成に到ります。したがって「鋳造」によるメダイユ制作にはたいへんな手間がかかりますが、芸術的完成度が高い作品を制作することが可能です。

 次の写真は19世紀末のフランスで制作された聖ベネディクトゥスのメダイで、「打刻」により制作されています。その下の写真は本品で、「鋳造」により制作されています。二点はいずれもフランスで制作されたブロンズ製メダイですが、二点を比較すると、上のメダイが純然たる信心具であるのに対して、本品はれっきとしたメダイユ芸術の作品であることがよくわかります。










 リュドヴィク・ペナンは19世紀前半以来四世代にわたってメダイユ彫刻家を輩出したリヨンのペナン家の一員で、正統的で重厚な作風により知られています。弱冠34歳であった1864年、当時の教皇ピウス9世により、カトリック教会の公式メダイユ彫刻家 (graveur pontifical) に任じられましたが、惜しくもその4年後に亡くなりました。リュドヴィク・ペナンによるいくつかの作品を紹介します。


【下】 マグダラのマリア 直径 25.8 mm (突出部分を除く) 18,800円




【下】 上智の座の美しき聖母 30.0 x 25.4 mm (突出部分を除く) 32,800円




【下】 アッシジの聖フランチェスコ 直径 21.5 mm (突出部分を除く) 14,800円




【下】 ゴシック・デザインの十字架 ブロンズ製大型メダイ 1860年代 42,800円




【下】 聖マグダレーナのメダイ アール・デコのエマイユ・シャンルヴェ 20.9 x 14.7 mm (突出部分を含む) 16,800円




【下】 我が肉を食し我が血を飲む人は永遠の生命を有す、而して我、終の日に之を復活せしむべし 直径41.1 mm 最大の厚さ 4.7 mm 重量34.5 g 1869年 35,800円




【下】 ミシオン記念 ブロンズ製クルシフィクス 51.3 x 31.5 mm 13,800円





【下】 クレルモンのノートル=ダム・デュ・ポール 十字軍800周年記念 800シルバーのメダイ 直径 22.8 mm (突出部分を除く) 1895年 18,800円




【下】 竪琴を弾く聖セシリア オリジナルの箱入り メダイユの直径 32.6 mm 厚さ 最大 2.8 mm 35,800円










 本品はおよそ150年前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、聖人の表情をはじめとする細部まで、制作当時のままの状態でよく残っています。保存状態は全体的にきわめて良好で、特筆すべき瑕疵(かし 欠点)は何ひとつありません。夭折の彫刻家リュドヴィク・ペナンが制作したまま、後世の修整を入れずにこの芸術家独自の作風をよく伝えるメダイユであり、19世紀のフランスを後世に伝える美しい作品です。





本体価格 35,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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