神の国は誰のものか 「子供たちをわたしのところに来させなさい」 色鮮やかな石版によるフランスの小聖画 71 x 109 mm

"Laissez venir à moi les petits enfants", éditeur inconnu, France, XIXe siècle


余白を含む聖画全体のサイズ 71 x 109 mm

商品写真に写っているチーク材の額のサイズ  240 x 190 mm  厚さ 25 mm


フランス  1880 - 1890年代



 カニヴェをはじめ、フランスにおける十九世紀の小聖画は、おおむねインタリオによって制作されました。しかしながら 1880年代頃には多色刷り石版による小聖画が多く刷られるようになります。縁に切り紙細工のあるカニヴェは二十世紀初頭まで作られましたが、最終世代に当たる二十世紀初頭のカニヴェは、切り紙細工が無い小聖画と同様に、すべて石版で刷られています。

 インタリオから石版画への移行は版画技法の変化に過ぎませんが、二十世紀半ばになると、小聖画の社会的役割にも大きな変化が生まれます。二十世紀前半までのフランスでは、カトリック信仰が市民生活に深い影響を及ぼしていました。教会をはじめとする宗教教育の場では、子供たちの日常生活に信仰を浸透させるため、教理問答のご褒美等に小さな聖画が与えられ、祈祷書の栞(しおり)に使用されて、宗教心の涵養が目指されました。しかしながら第二次世界大戦後には社会の世俗化が急速に進み、かつて子供たちの日常生活に浸透していた小聖画は姿を消しました。二十世紀半ば以降の小聖画には、日常生活と信仰をテーマにした作品はほとんど見られなくなり、ノエル(クリスマス)や誕生日、洗礼や初聖体など、特別な機会を記念するものに限られるようになりました。





 本品は十九世紀末のフランスで刷られた小聖画で、イエスの公生涯の中でもよく知られている逸話のひとつ、イエス・キリストが子供たちを祝福し給うた出来事を、多色刷り石版画ならではの鮮やかな色合いで描いています。余白を含めた小聖画全体のサイズは二十世紀の聖画よりも一回り大きく、横 71ミリメートル、縦 109ミリメートルです。





 小聖画の額装には日本の職人が手作りしたチーク材の自立式フレームを使用しています。額の概寸は 24 x 19センチメートル、厚さ 2.5センチメートル前後で、チーク材特有の艶と重量があります。この額は個々の材の個性的形状を活かして製作しているため、一点ものとなっています。商品写真は反射を防ぐために透明アクリル板を外して撮影しています。

 商品代金には聖画の価格、額の価格、ベルベット張りマットの価格、工賃、税がすべて含まれます。ベルベットの色は変更できます。聖画のご注文をいただいた時点で写真の額が在庫していない場合は、同種または同等レベルの額の中からお客様のお好みに合うものをご用意いたします。ご安心くださいませ。





 公生涯が終わりに近づいた頃、イエスは全イスラエルが待望するメシアであると考えられて大勢の人々に崇められ、付き従われていました。そのような「英雄」「偉い先生」であるイエスに対して、幼い子供たちは気後れもせずに近づき、弟子たちがこれを叱ります。しかしながらイエスは逆に弟子たちを叱って、子供たちを側に引き寄せ、祝福し給いました。

 この作品においても、子供たちは幼子ゆえの鋭敏な感覚でイエスの愛を感じ取り、慕わしげにまとわりついています。乳児は安心してイエスの腕に抱かれ、三、四歳の子はイエスの衣の端を掴み、七、八歳の子も寄り添うように立っています。イエスが子供たちを引き寄せて祝福し給うた出来事は、全ての共観福音書に記録されています。ネストレ=アーラント二十六版、及び新共同訳により、「マルコによる福音書」十章十三節から十六節を引用いたします。

     Καὶ προσέφερον αὐτῷ παιδία ἵνα αὐτῶν ἅψηται: οἱ δὲ μαθηταὶ ἐπετίμησαν αὐτοῖς. ἰδὼν δὲ ὁ Ἰησοῦς ἠγανάκτησεν καὶ εἶπεν αὐτοῖς, Ἄφετε τὰ παιδία ἔρχεσθαι πρός με, μὴ κωλύετε αὐτά, τῶν γὰρ τοιούτων ἐστὶν ἡ βασιλεία τοῦ θεοῦ. ἀμὴν λέγω ὑμῖν, ὃς ἂν μὴ δέξηται τὴν βασιλείαν τοῦ θεοῦ ὡς παιδίον, οὐ μὴ εἰσέλθῃ εἰς αὐτήν. καὶ ἐναγκαλισάμενος αὐτὰ κατευλόγει τιθεὶς τὰς χεῖρας ἐπ' αὐτά.    イエスに触れていただくために、人々が子供たちを連れて来た。弟子たちはこの人々を叱った。しかし、イエスはこれを見て憤り、弟子たちに言われた。「子供たちをわたしのところに来させなさい。妨げてはならない。神の国はこのような者たちのものである。はっきり言っておく。子供のように神の国を受け入れる人でなければ、決してそこに入ることはできない。」そして、子供たちを抱き上げ、手を置いて祝福された。


 福音書のこの箇所で使われている「子供たち」という言葉は、マタイ伝(19: 13 - 15)及びマルコ伝(10: 13 - 16)では「パイディア」(παιδία ギリシア語)あるいは「パルウリィ」(PARVULI ラテン語)、ルカ伝(18: 15 - 17)では「ブレプェー」(βρέφη ギリシア語)あるいは「イーンファンテース」(INFANTES ラテン語)が使われています。「パイディア」「パルウリィ」は広義の「子供たち」を指す最も一般的な言葉ですが、ルカ伝で使われている「ブレプェー」という言葉はもともと胎児を表す言葉が新生児、乳児の意味に転じたものです。またこれをラテン語に訳した「イーンファンテース」は、「言葉をうまく話せない」という意味の形式所相動詞「イーンフォル」(INFOR) の分詞に由来する語であって、まだ片言しか話せないような乳幼児、現代で言えば幼稚園に入る前の幼児ぐらいの年齢の幼子を指します。

 ちなみに1910年版のラゲ訳ではマルコ伝に「幼兒」(をさなご)、マタイ伝とルカ伝に「孩兒」(をさなご)の文字を当てています。「孩」(カイ、ガイ)とはやはり乳児のことであり、転じて二、三歳までの乳幼児を指します。子供のうちでもとりわけ幼い二、三歳の幼児のように、何も疑わずに神を信じ、全てを神に委ねて安心しきる者だけが天国に行くことがわかります。これは大人にとってなんと難しいことでしょうか。





 この聖画において、イエスは赤い衣を着、青いマントを羽織っておられます。赤の衣と青のマントの組み合わせは、近世に描かれた聖母の図像と共通します。衣の赤は愛を象徴する色であるゆえに、イエスの衣に最も相応しいといえます。また青は知恵を象徴するゆえに、緑の衣を着た幼子がイエスの青いマントを掴む様子は、知恵が無いと思われる幼い子供こそが、真の知恵を掴んでいることを示します。マントを掴む子は緑の衣を着ていますが、これは生命樹の色です。信仰の知恵により、この子は天国で永遠の生命を得たのです。イエスの胸に抱かれる最も幼い子供が、無垢の色である白の衣を着ているのも示唆的です。この乳児を始め、すべての子供たちは胸に手を当て、あるいは両手を合わせて、地上にいながら神と対話しています。

 なおこの出来事が起こったとき、イエスも子供たちも実際にはこのように美しい色の服を着てはいなかったはずですが、本品は子供が親しみを持つように意図して制作された小聖画ですので、文字をほとんど使わず、絵本のように見て楽しめる作品となっています。本品を始め、子供用聖画の鮮やかな色彩はキッチュ(独 Kitsch, kitschig 俗悪)と解されるべきではなく、むしろ子供たちを招く神の慈しみの顕れと見るべきでしょう。





 上の写真は男性店主が本品を手に取って撮影しています。本品の実物を女性がご覧になれば、この写真で見るよりも大きなサイズに感じられます。

 本品の聖画は 1880年代または 1890年代頃のフランスで制作された真正のアンティーク品です。百数十年前の古い聖画ですが、保存状態は極めて良好です。破れ目や折り目、目立つ汚れなど、特筆すべき問題は何もありません。良質の中性紙に刷られているため、酸性紙のような劣化は今後も起こりません。





13,800円

※ 聖画、額、ベルベット張りマット、工賃、税すべて込み。分割払い可。

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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