ウィリアム・ブグロー作 「ラ・ヴィエルジュ・コンソラトリス」 慰めの聖母 コロタイプによるアンティーク小聖画 116 x 75 mm フランス 1890 - 1920年頃



 ウィリアム・ブグロー(William Bouguereau, 1825 - 1905)の原画に基づくフランスの古い小聖画。悲しむ者を慰め給う聖母を描いています。





 本品の聖画において、玉座に座る聖母の膝にイエスの姿は見当たりません。宗教画は時間の流れに縛られないゆえに、聖母はたいへん若々しい顔立ちに描かれています。しかしながらここに描かれた聖母は既にイエスを亡くしていることがわかります。玉座の背もたれには十字架が浮き出し、上方の交差部には神の子羊が描かれています。神の子羊は燔祭の犠牲獣であり、十字架上に刑死した救い主イエスの前表に他なりません。イエスの犠牲を悼む悲しみの聖母は、暗色の喪服を身に着けています。

 聖母の膝に一人の女性が身を投げ出し、悲嘆に暮れています。本品(コロタイプ)は聖画と同じ面に祈りの言葉を書いているため、元の絵の下部が断ち切られていますが、ブグローの原画を見れば、この女性は幼い子供を亡くしたために泣いていることがわかります。伝統的図像表現において、聖母の膝にはイエスの姿がありました。しかしイエスを亡くした今、聖母の膝にイエスの姿はありません。聖母は幼い子供を亡くして悲しむ母を空になった膝に抱きとめ、その悲しみを分かちあっています。


 ウィリアム・ブグローはラファエロとグイド・レーニの再来であり、人類の美術史上おそらくもっとも偉大な画家です。その業績にふさわしく、芸術家ブグローは生前から数々の栄誉に包まれました。しかしながらブグローは、ひとりの人間としては極めて不幸でした。なぜならばブグローは、1856年に結婚した最初の妻を 1877年に喪いました。またこの妻との間には三人の息子と二人の娘が生まれましたが、1872年に幼い娘を、1875年には十六歳の息子を亡くし、1877年に妻が没した直後には、幼い息子も喪いました。聖画の原画となった「慰めの聖母」("la Vierge Consolatrice", 1877)は、家族の死を悼むウィリアム・ブグローが 1877年に描いた作品です。

 親にとって、幼い子供に先立たれる以上の不幸はありません。その悲しみは、男親とて同じことです。聖母の膝に身を投げて悲嘆にくれる女性の姿に、ブグローは子供たちに先立たれた妻の姿を、また妻と子供たちに先立たれた自分自身の悲しみを重ね合わせています。





 本品の聖画は、コロタイプによります。コロタイプは十九世紀半ばにフランスで発明された技法で、ゼラチンを使用した平版です。コロタイプは最高度の正確さで原画を再現でき、現代においてもコロタイプの正確さを凌ぐ技法は無いと思われますが、製版と印刷に非常な手間がかかる技法であるために、現在ではほとんど制作されなくなりました。







 上の写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。人物像の目鼻口や指等の細部はいずれも一ミリメートル以下の極小サイズですが、あらゆる細部が原画そのままの正確さで再現されています。





 聖画の下には聖母に対する祈りの言葉がフランス語で書かれています。筆者(広川)による全訳を、テキストに付して示します。

      Vierge Sainte, au milieu de vos jours glorieux n'oubliez pas les tristesses de la terre. Jetez un regard de bonté sur ceux qui sont dans la souffrance, qui luttent contre les difficultés et qui ne cessent de tremper leurs lèvres aux amertumes de cette vie. Ayez pitié de ceux qui s'aimaient et qui ont été séparés. Ayez pitié de l'isolement du cœur. Ayez pitié de la faiblesse de notre foi. Ayez pitié des objets de notre tendresse. Ayez pitié de ceux qui pleurent, de ceux qui prient, de ceux qui tremblent. Donnez à tous l'espérance et la paix. Ainsi soit-il.     聖なるおとめよ。御身は栄光に包まれ給いながらも、地上の悲しみをお忘れにならないでください。苦しみのうちにある者、困難に抗して戦う者、常にこの世の辛苦を飲む者に、優しき眼差しを投げかけてください。愛し合いつつも離れ離れになった者たちを憐み給え。心寂しき者たちを憐み給え。我らの弱き信仰を憐み給え。我らが愛する者たちを憐み給え。涙を流す者たち、祈る者たち、震える者たちを憐み給え。希望と平安を皆に与え給え。アーメン。
         
    L'Abbé Perreyve   ペレーヴ神父


 ペレーヴ神父とは、フランスのカトリック司祭アンリ・ペレーヴ師(Henri Perreyve, 1831 - 1865)のことです。本品の制作年代はペレーヴ神父よりも少し後、おそらく十九世紀末から 1920年頃の間です。当時は子供の死亡率も現代に比べて格段に高く、社会的不平等も大きく、特にフランスは未曽有の大量殺戮戦(第一次世界大戦)によって国土が荒廃し、戦死や戦災死を免れた国民も、戦後まで苦しみ続けました。

 第二次世界大戦後には、フランスにおいても社会の世俗化が急速に進み、小聖画の社会的役割に大きな変化が生まれて、日常の信仰生活を主題に描かれた小聖画は姿を消しました。しかしながら本品が制作された二十世紀前半のフランスは、カトリック信仰が社会に浸透し、市民生活に深い影響を及ぼしていました。この世に生きる以上、誰もが免れ得ない日々の悲しみと苦しみの中にあって、子供が母に駆け寄って胸に顔を埋めるような祈りの言葉は、本品が未だ信仰深かった時代の聖画であることを思い起こさせてくれます。





 本品はチーク材のフレームで額装しています。額は日本の職人が手作りしたもので、個々の材の個性的形状を活かして製作しているため、一点ものとなっています。額の概寸は 24 x 19センチメートル、厚さ 2.5センチメートル前後で、チーク材特有の艶と重量があります。商品写真は反射を防ぐために透明アクリル板を外して撮影しています。

 商品代金には聖画の価格、額の価格、ベルベット張りマットの価格、工賃、税がすべて含まれます。ベルベットの色は変更できます。聖画のご注文をいただいた時点で写真の額が在庫していない場合は、同種または同等レベルの額の中からお客様のお好みに合うものをご用意いたします。ご安心ください。





 上の写真は男性店主が本品を手に取って撮影しています。本品の実物を女性がご覧になれば、この写真で見るよりも大きなサイズに感じられます。

 本品は百年以上前のフランスで刷られた真正のアンティーク品ですが、良質の中性紙に刷られているのでまったく劣化しておらず、保存状態は極めて良好です。酸性紙のような劣化は今後も起こりません。特筆すべき問題は何もありません。





12,800円  ※ 聖画、チーク材の額、マット、ベルベット、工賃、税すべて込み。分割払い可

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。別料金にて額装も承ります。




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