太平洋戦争初期の軍用時計 ウォルサム 6/0 - 1942 グレード 10617 (十七石小秒針付) 1942年

Waltham caliber 6/0 - '42, grade 10617, Ord. Dept. OG - 75820


ケースの直径: 32.7ミリメートル ※ 竜頭の突出、及び12時側と6時側のラグの突出を除く。

時計の厚さ: 12.2ミリメートル ※ 風防と裏蓋を含む。


 1942年頃のウォルサム社製ミリタリー・ウォッチ。第二次世界大戦当時の完全なオリジナル品、すなわち消耗品であるベルトを除けば、軍から支給後に置き換えられた部品が無いと考えられる品物です。





 本品は手袋を着用したままでも扱えるように、直径、厚さともかなり大きな竜頭(りゅうず)が付いています。ケースはスター・ウォッチ・ケース・カンパニーがウォルサム社に納入したもので、ベゼル、裏蓋ともステンレス・スティール製です。





 ラグ(バンドを取り付けるための突起)はケース側面の広い面積に溶接されています。12時側と6時側のラグの突出を除いて測った直径は 32.7ミリメートルで、現代の男性用時計に比べると小ぶりです。しかしながら本品のムーヴメントは「6/0サイズ」(マイナス六サイズ)という大きさで、第二次世界大戦時に多かった 「8/0サイズ」の軍用時計と比べると、当時としては大きめです。頑丈に作られたケースは視覚的にも重厚で男性的であり、紛れもないミリタリー・ウォッチの表情を持っています。バンド幅は 16ミリメートルです。





 本来白色であった文字盤は、経年により美しい古色が生じています。時針、分針、6時の位置にある秒針はいずれもブルー・スティール(青焼き)です。現代の時計の青い針はたいていの場合青く塗装していますが、本品のようなアンティーク・ウォッチの青い針は「ブルー・スティール」と言って、鋼を加熱して青い酸化被膜を作ったものです。「ブルー・スティール」は見た目が美しいことに加えて腐食(錆)に強くなります。





 時針と分針、及びアラビア数字インデックスの輪郭線内部には、放射性ラジウムによる夜光塗料が塗られています。放射性ラジウムは文字盤加工職人の被曝を防止するために現在では使用が禁じられており、アンティーク・ウォッチならではの仕様です。なお夜光塗料のラジウムで時計の使用者が被曝することはありません。また針の塗料はほとんど失われ、インデックスの塗料も劣化して現在では光りません。





 ケース裏蓋はスクリュー式で、「アメリカ合衆国陸軍武器科」(Ordnance Department, USA)、"OG 75820" の刻印があります。

 第二次世界大戦当時のアメリカの軍用時計において、シリアル番号に先行する「オードナンス・コード」が "OG" である場合、「1940年11月12日以降に製造された七石から九石の防水時計」を示します。「1940年11月12日以降に製造された十五石から十七石の防水時計」を示す「オードナンス・コード」は、"OF" であるはずです。しかしながらシリアル番号が "OG" から始まるウォルサム製の軍用時計には、ムーヴメントを入れ替えた形跡が無いにもかかわらず、石数が多い例がよくあります。本品もムーヴメントを換装していないオリジナルと思われますが、十七石です。

 筆者(広川)が推測するに、これは石数の多いムーヴメントが当初の予定よりも大きな割合を占めるようになったために、先に作っていたケースの刻印と齟齬が生じたものと考えられます。対日戦争を効率的に遂行するために、正確なハイ・ジュエル・ウォッチ(十七石の時計)の割合が増えるのは良いことです。刻印された「オードナンス・コード」がムーヴメントの石数と合わないという理由で、すでに出来上がっているケースを大量に廃棄して作り直すのは、対日戦争を遂行するうえで如何なる利点ももたらしません。要するにムーヴメントの質を当初の計画よりも向上させるとともに、ケースの在庫を有効利用した結果、本品のケースに刻印された「オードナンス・コード」と、ムーヴメントの石数の間に齟齬が生じたものと思われます。

 なお「オードナンス・デパートメント」は、1950年以降は「オードナンス・コー」(the Ordnance Corps) と改称し、軍用時計裏蓋の刻印も "ORD. CORPS USA" に変更されます。本品は第二次世界大戦当時の時計ですので、刻印は "ORD. DEPT"(オードナンス・デパートメント)となっています。





 本品の機械は六時にスモール・セカンドがあるウォルサム製十七石ムーヴメント、「キャリバー 6/0 1942 グレード 10617」です。「ウォルサム キャリバー 6/0 1942」は 6/0サイズ(マイナス六サイズ)、すなわち地板の直径 24.55 ミリメートルのムーヴメントで、九石の「グレード 10609」と十七石の「グレード 10617」があり、いずれも「フォー・アジャストメンツ」(four adjustments)の優良機です。

 「ウォルサム キャリバー 6/0 1942」の基本設計は、1898年のハンティング懐中時計用ムーヴメント「キャリバー 6/0 『ジュエル』」(6/0 size "Jewel")と共通です。1898年の時点で完成度が高かったムーヴメント「ジュエル」に更なる改良を施し、究極の完成度を目指した優秀な機械といえます。

 「ウォルサム キャリバー 6/0 1942 グレード 10617」は、一号機のシリアル番号が "31411001"、最後の機械のシリアル番号が "32234000" です。本品のシリアル番号は "31447594" ですから、1942年製であることがわかります。





 写真で赤く見えているのはルビーです。ルビー(コランダム)は非常に硬い鉱物であるゆえに摩耗に強く、時計ムーヴメントのなかでも脱進機をはじめとする特に重要な箇所に使用されます。本品のムーヴメントには十七個のルビー製部品が使用されています。上の写真の手前に見える刻印 "17 JEWELS"(十七石)は、ルビー製部品の数を表しています。

 写真の右寄りには振動する「天符」(てんぷ)と、天符の中心部で渦を巻く「ひげぜんまい」も写っています。天符は振子に相当する最重要部品で、ひげぜんまいの働きにより、一定の周期で振動(往復するように回転すること)します。





 本品のひげぜんまいは外端を時計の裏蓋側に持ち上げた「巻き上げひげ」で、アブラアン・ブレゲというフランス人時計師の名前を取って「ブレゲひげ」(Breguet hairspring, spiral Breguet) とも呼ばれています。





 上の写真は実物の面積を数百倍に拡大しています。実物において、受け石座(画面上方のルビーを囲み、日本のネジで留められている金属製円盤)の直径は三ミリメートルです。ひげぜんまいが平ひげではなく、外端を持ち上げたブレゲひげであることがわかります。歯車は歯の曲線がサイクロイドを描くように切削されています。すべての部品は丁寧に仕上げられています。





 本品はおよそ70年前に作られた真正のヴィンテージ品ですが、ムーヴメントは順調に作動しています。文字盤は美しい古色を帯びています。ステンレス・スティール無垢製ケースは摩耗に強く、今後も美しい状態を保ちます。軍用時計とはいえ昨今流行している時計とは違って上品なサイズであり、仕事用にも十分に使えます。





  本品は男性用として作られた時計ですが、20世紀前半の時計は現在に比べて小さめのサイズであり、たいへん上品であるゆえに、女性にもお使いいただけます。バンドはお好きな色、質感、長さのバンドに替えることができます。時計会社はバンドまで作っていませんので、アンティーク時計のバンドをお好みのものに取り替えても、アンティーク品としての価値はまったく減りません。時計お買上時のバンド交換は、当店の在庫品であれば無料で承ります。

 当店はアンティーク時計の修理に対応しております。アンティーク時計の修理等、当店が取り扱う時計につきましては、こちらをご覧ください。







 当店では時計用の箱をご購入いただけます。箱はレプリカ(現代の複製品)ではなく、時計と同時代のヴィンテージ品(アンティーク品)です。上の写真に写っている箱の税込価格は 15,800円から 18,900円ですが、時計をお買い上げいただいた方には 5,800円から 9,500円でご提供いたします。

 当店の時計は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払い(三回払い、六回払い、十二回払いなど。利息手数料なし)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。





本体価格 147,000円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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