耐衝撃装置を有する先進的ミリタリー・ウォッチ 《オプティマ 十七石》 ハイ・ジュエルの高級機 スイス 1950年頃


ラグと竜頭を除くケースの直径 31.5ミリメートル

風防の直径 26.5ミリメートル


ラグ幅またはバンド幅(時計に取り付ける部分のバンド幅) 16ミリメートル



 1940年代頃のミリタリー・ウォッチ。元々男性用として作られた時計ですが、大きめの時計がお好きな女性にもご愛用いただけます。風防の直径は五百円硬貨とちょうど同じです。バンド幅は十六ミリメートルで、お好きな色の革バンドまたは金属製バンドに交換可能です。商品写真に写っているのは同一の時計で、バンドは黒と茶色を付け替えて撮影しています。


 本品にはミリタリー・ウォッチならではの特徴が見られます。それらを列挙すると、次の通りです。

   1.    円形の文字盤を採用することで時刻の読み取りを容易にし、読み誤りを防いでいること。
   2.    裏蓋をステンレス・スティール製とし、耐久性を高めていること。
   3.    裏蓋をスクリュー(ねじ)式とし、防水性と防塵性を高めていること。
   4.    アラビア数字のインデックスを採用することで時刻の読み取りを容易にし、読み誤りを防いでいること。
   5.    文字盤の周縁部に分・秒の数字を表示するとともに、細かい刻み目を書いていること。
   6.    中三針式とすることにより、秒針の実用性を高めていること。
   7.    秒針を赤く塗って視認性を高めていること。
   8.    針とインデックスにラジウム塗料を塗り、暗所での視認性を高めていること。
   9.    天符にショック・アブソーバーを装備し、ミリタリー・ウォッチに必要な耐衝撃性を高めていること。

 上の各項目に即して、商品説明を行います。





 時計内部の機械を「ムーヴメント」(英 movement)、ムーヴメントを保護する金属製の容器(時計本体の外側)を「ケース」(英 case)といいます。

 本品が作られたのは 1950年頃で、この時代の男性用時計は四角いケースが流行していました。しかしながら本品をはじめとするミリタリー・ウォッチのケースは常に円形であり、レクタンギュラー(長方形)やトノー(樽型)のケースが採用されることは決してありません。

 ミリタリー・ウォッチのケースが円形である理由は、文字盤を円形とすることで時刻の読み取りを容易にし、読み誤りを防ぐためです。時計の文字盤が四角い場合、長針の先端がベゼルに衝突しないためには、針の長さを三時及び九時の位置で決定せざるを得ず、長針も短針もかなり短くなります。その結果十時から二時、四時から八時の位置で時刻が正確に読み取りにくくなります。この問題は文字盤を円形にすることで簡単に解決します。ミリタリー・ウォッチの意匠において重視されるのは、装飾性や流行ではなく、実用性、視認性です。それゆえミリタリー・ウォッチでは常に円形ケースが採用されます。


 ケースはベゼル(英 bezel)と裏蓋(英 back)に分かれます。べゼルとは風防の枠となる部分のことで、ケースの上半分に相当します。本品のベゼルは銅の合金製で、ニッケルまたはクロムによる銀色のめっきが施されています。

 ケースの裏蓋は肌と擦れ合うゆえに、時計において最も摩耗しやすい部分です。本品の裏蓋はハードな使用に耐えるステンレス・スティール製で、軍用時計にふさわしい耐久性が確保されています。また1950年頃の時計はケース裏蓋が「こじ開け式」であることが多く、特に円形以外のケースの裏蓋はすべて「こじ開け式」ですが、ミリタリー・ウォッチでは防水性・防塵性(ぼうじんせい ホコリの侵入を防ぐ性質)に優れた「スクリュー式」(ねじ式)が多く採用されます。本品の裏蓋もスクリュー式です。ただし現状では防水性は失われています。





 時計において、時刻を表す刻み目や数字が配置された板状の部品を「文字盤」(もじばん)または「文字板」(もじいた)といいます。本品は時刻の読み取りが最も容易な円形文字盤を有しますが、上述した通り、これはミリタリー・ウォッチが実用性を最優先するからです。ミリタリー・ウォッチの文字盤が有するもう一つの特徴は、インデックスがアラビア数字によることです。

 文字盤の周囲十二か所にある「長針五分ごと、短針一時間ごと」の数字を、「インデックス」(英 index)といいます。インデックスの様式には年代ごとの流行があります。大体の傾向として、1940年代以前の時計では、インデックスはすべてアラビア数字ですが、1950年代から 1960年代半ば頃までの時計では、アラビア数字とバー・インデックス(線状のインデックス)が混用されます。1960年代後半から 1970年代の時計は十二時以外のすべてがバー・インデックスです。スイス製腕時計の文字盤が有する様式的特徴は、年代ごとに驚くほど共通しています。例外はほとんどありません。

 しかるにミリタリー・ウォッチは、どの年代のものであっても、インデックスに数字とバーが混用されたり、バー・インデックスが採用されたりすることは決してありません。ミリタリー・ウォッチのインデックスは、すべてアラビア数字によります。これは時刻の読み取りを容易にし、読み誤りを防ぐためです。





 ミリタリー・ウォッチの文字盤色は決まっていません。本品の文字盤は白で、この時計が製作されたときのオリジナルです。アンティーク時計の文字盤にはある程度の「焼け」があるのが普通で、本品にも纔(わず)かな変色がありますが、変色の程度はごく軽く、たいへん綺麗な状態です。文字盤の上半分には流麗な筆記体で「オプティマ」(Optima)のブランド名、その下に「防水」(WATERPROTECTED)、「耐衝撃装置」(SHOCK-ABSORBER)の表示、文字盤の下半分に「耐磁」(ANTIMAGNETIC)の表示があります。文字盤周縁部の外側下端には、「スイス製」(SWISS)と書かれています。

 「耐衝撃装置」の表示は、天符の受け石が固定されず、バネで押さえられているという意味です。「耐磁」の表示は、天符のひげぜんまいが耐磁性合金で作られているという意味です。

 1940年代までの時計のひげぜんまいは、多くの場合、ブルー・スティールでできていました。ブルー・スティールは錆を生じにくいですが、磁化を防ぐことはできません。ひげぜんまいが磁化すると、時計が非常に速く進むようになります。これを防ぐために開発されたのが耐磁合金製のひげぜんまいで、1950年頃以降に広く導入されました。文字盤に「耐磁」(ANTIMAGNETIC)の表示があるのは、1950年頃に作られた時計の特徴です。


 文字盤の周縁部には細かい刻み目を描き、五分・五秒毎に数字を表示しています。周縁部の細かい表示は中三針(センター・セカンド式)の時計にして初めて意味を持ちますが、民生用の時計の場合、たとえ中三針であっても、文字盤にこのような表示はありません。本品の文字盤の周縁部に見られる細かい刻み目と数字の表記は、やはりミリタリー・ウォッチならではの特徴です。





 現代の時計は「中三針(なかさんしん)式」または「センター・セカンド式」といって、短針、長針と同様に、秒針が時計の中央に取り付けられています。これに対して 1950年代までの時計は「小秒針式」または「スモール・セカンド式」といって、秒針が六時の位置に取り付けられています。腕時計の小秒針はわずか三ミリメートルほどの長さしかなく、視認性に劣ります。しかしながら秒針を時計の中央に取り付けるのは技術的に困難で、コストがかかります。それゆえ「中三針式」は、1960年代になってようやく普及します。それ以前の時計はほとんどすべて「小秒針式」です。

 しかるにミリタリー・ウォッチには見やすい秒針が必要ですので、1950年代以前のものであっても「小秒針式」ではなく、「中三針式」です。本品が製作された 1950年頃、秒針を有する民生用の時計は「小秒針式」でしたが、本品はミリタリー・ウォッチであるゆえに「中三針式」となっています。


 現代の時計は秒針が付いているのが当たり前で、これに注意を払う人はほとんどいません。しかしながら初期の中三針式時計は見やすい秒針を必要とするゆえに、多少の無理をして時計の中心に大きな秒針を取り付けています。初期の中三針式時計の秒針は、必要な機能を果たす部品であって、飾りではありません。それゆえミリタリー・ウォッチの大きな秒針は、視認性をさらに高めるために、赤く塗られています。本品の秒針も赤く塗られています。





 本品の時針と分針はミリタリー・ウォッチに特有の「ラジウム型」で、ブルー・スティール製です。ブルー・スティールとは、鋼を加熱して青い酸化被膜を作ったものです。ブルー・スティールは見た目が美しいことに加えて腐食(錆)に強くなります。ブルー・スティールは貴金属ではありませんが、制作に手間がかかるので、現代の時計の青い針はたいていの場合青く塗装しています。本品の青い針は真正のブルー・スティールです。

 インデックスのアラビア数字には、暗所での視認性を高めるために、ラジウムによる夜光塗料が塗られています。針に塗られたラジウム塗料は、時針に残っています。ラジウムの夜光塗料が塗布されているのは、古いミリタリー・ウォッチの特徴です。ただし本品のラジウム塗料は、経年により、夜光性を失っています。

 古い時計の夜光塗料に含まれるラジウムは放射性物質であり、発癌性を有します。ラジウムを扱う文字盤工場では多数の作業員が癌になって死亡したために、現在では時計の夜光塗料にラジウムを使うことが禁じられています。ラジウムには四つの同位体がありますが、大部分はラジウム226です。ラジウム226の半減期は 1601年ですから、本品のラジウム塗料は夜光塗料としての機能を失っている一方で、放射能のみを当時のままに保持していることになります。しかしながらこの程度の放射性物質は気にしなくても大丈夫です。文字盤工場で多数の死者が出たのは、毎日筆先を舐めて作業し、ラジウムの経口摂取を続けたからです。時計の使用者がラジウム塗料のせいで癌になることは、決してありません。





 上の写真は裏蓋の内側で、最上部にはアルベルト・グロッセンバッヒャー時計会社(Fabrique d'Horlogerie Alb. Grossenbacher)の社名が刻印されています。

 「オプティマ」のブランド名で時計を生産していたスイスの時計会社、オプティマ社(F. Peter, Fabrique D'Horlogerie Optima)は、1918年頃、フランツ・ペーターという人によって設立されました。1930年頃、同社の経営はアルベルト・グロッセンバッヒャーに引き継がれましたが、「オプティマ」の名前は残りました。「オプティマ」(OPTIMA)は、ラテン語「ボヌス」(羅 BONUS 良い)の最上級(女性単数主格・奪格、または中性複数主格・対格)で、「最良のもの」という意味です。

 本品の裏蓋には、時計会社名「アルベルト・グロッセンバッヒャー」(Alb. Grossenbacher)の下に、「スイス製」(SWISS MADE)、「ステンレス・スティール製裏蓋」(STAINLESS STEEL BACK)の文字、その下にはケースの型式及びシリアル番号と思われる数字が刻印されています。





 上の写真は本品のムーヴメントです。六時側の受け、すなわち上の写真で右上に写っている受けには、「アルベルト・グロッセンバッヒャー」(ALB. GROSSENBACHER)、及び「セヴンティーン・ジュエルズ」(SEVENTEEN 17 JEWELS)の文字が刻印されています。香箱受けには「スイス製」(SWISS)の文字が刻印されています。

 写真に赤く写っているのはルビーです。良質の機械式腕時計、懐中時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはモース硬度「九」と非常に硬い鉱物(コランダム Al2O3)ですので、時計の部品として使用されるのです。本品のムーヴメントには十七個のルビーが使用されています。写真ではルビーが四個しか見えませんが、あとの十三個は機械の裏側(文字盤側)など、上の写真に写っていない部分に使われています。本品のように十七個のルビーを使用した「十七石」(じゅうななせき)のムーヴメントは、摩耗してはならない箇所のほぼすべてにルビーを使用しており、「ハイ・ジュエル・ムーヴメント」(英 high jewel movement)と呼ばれる高級品です。





 本品のムーヴメントは、スイスのETA社が制作した「キャリバー 1080」(ETA 1080)です。「ETA キャリバー 1080」(ETA 1080)は 10 1/2リーニュの円形手巻きムーヴメントで、主に 1950年代から 1960年代を通じて数々の時計に採用された信頼性の高い機械です。「ETA キャリバー 1080」には十五石のものもありますが、この時計に搭載されているのはハイ・ジュエル(十七石)の高級機です。

 ムーヴメントの九時付近、上の写真でいえばムーヴメントの左側に、小さなネジがたくさん取り付けられた環状の部品が写っています。これは携帯用時計(ウォッチ、すなわち懐中時計及び腕時計)において振子の役割をする部品で、天符(てんぷ)といいます。天符の下に刻印されている数字 "1080" は、本機のキャリバー名です。

 時計のムーヴメントを人間の体に譬えれば、天符は脳や心臓に相当します。天符の中心軸を天真(てんしん)といいます。天真の両端をホゾといいます。腕時計の天真は、ホゾの直径が 0.08ミリメートルほどしかなく、非常にデリケートです。天真は鋼鉄でできています。鋼鉄は硬く、引っ掻きや摩耗に対しては強い素材ですが、衝撃に対しては脆弱(ぜいじゃく)で、時計を誤って落下させる等の衝撃を与えると簡単に折れてしまいます。天真のホゾが折れると天符の動きが止まり、時計が停止します。それゆえ天真のホゾ折れは、人間に譬えれば脳死や心停止のように重大な故障です。





 この故障を起きにくくするために、本品のムーヴメントは耐衝撃装置を備えています。写真を見ると、天符の受け石(天符の中心に見えるルビー)が多数の小さな爪で保持されていることがお分かりいただけます。これが耐衝撃装置で、ムーヴメントに強い慣性が働いたとき、天符の穴石と受け石にわずかな動きを許すことにより、天真のホゾに加わる衝撃を低減します。1950年代に入ると「インカブロック」(Incabloc)をはじめとする各種の耐衝撃装置が開発されますが、本機が装備しているのは、独自に工夫された初期の耐衝撃装置です。

 なお耐衝撃装置が付いていても、衝撃が加わる方向によっては、耐衝撃機能がほとんど働きません。したがって耐衝撃装置の有無にかかわらず、機械式時計は乱暴に扱うべきではありません。そういう意味では、耐衝撃装置が付いたからといって使い勝手が良くなるわけでもないのですが、万一の事故を考えると、耐衝撃装置は付いているほうが一層安心できます。本品は戦闘や訓練で激しい動きが加わるミリタリー・ウォッチであるゆえに、民生用の時計に先駆けて耐衝撃装置が装備されています。





 本品のムーヴメントは天符の振り角も大きく、良好な状態です。オシドリの嵌まる竜真の窪み、キチ車と鼓車の噛み合わせ部分、裏押さえの腕部分等、消耗しやすい部分にも異常はありません。アンティーク時計はどこの店でもほぼ現状売りで、修理にはなかなか対応してもらえませんが、当店ではアンティーク時計の修理に対応しています。予備のムーヴメントをはじめとする「ETA キャリバー 1080」(ETA 1080)の各種パーツも、当店には豊富に確保しております。





  本品はもともと男性用として作られた時計ですが、現代の時計に比べて小さく上品なサイズであるゆえに、大きめの時計がお好きな女性にもお使いいただけます。バンドはお好きな色、質感、長さのバンドに換えることができます。時計会社はバンドまで作っていませんので、アンティーク時計のバンドをお好みのものに取り換えても、アンティーク品としての価値はまったく減りません。時計お買上時のバンド交換は、当店の在庫品であれば無料で承ります。本品に適合するバンド幅は十六ミリメートルで、男性用として作られたヴィンテージ・ウォッチ(アンティーク時計)に標準的なサイズです。

 当店はアンティーク時計の修理に対応しております。アンティーク時計の修理等、当店が取り扱う時計につきましては、こちらをご覧ください。当店の時計は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払いでもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。





本体価格 95,000円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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