エルジン 《グレード 462》 懐中時計の面影を残したアールデコの腕時計 初期の紳士用 七石 1930年


突出部分を除くケースの直径 30.6 mm

バンドの幅 16 mm

風防を含む最大の厚さ 10.5 mm



 1930年頃にアメリカのエルジン社が製作した腕時計。男性の間で腕時計が本格的に普及し始めたのは1920年代後半で、1930年頃に製作された本品には、懐中時計の色濃い面影が残っています。もともと男性用として作られた時計ですが、五百円硬貨よりもひとまわり大きい程度の上品なサイズですので、女性にもご愛用いただけます。九十年近く前のアンティーク品にもかかわらず、順調に動作しています。





 時計において、時刻を表す刻み目や数字が配置された板状の部品を「文字盤」(もじばん)または「文字板」(もじいた)といいます。本品の文字盤は二色に分かれたお洒落なもので、中央と外縁にわずかに黄味がかった銀色、インデックスの背景部分に明るい銅色が使われています。この文字盤は 1930年に作られた時のままのオリジナルで、後に書き換えた再生文字盤ではありません。ところどころに軽度の変色がありますが、八十年以上前の文字盤としては極めて綺麗な保存状態です。





 文字盤の周囲十二か所にある「長針五分ごと、短針一時間ごと」の数字を「インデックス」(英 index)といいます。本品のインデックスは金の薄板で作ったアラビア数字を貼り付けてあり、背景からわずかに突出しています。

 1950年代半ば以降の時計は、大抵の場合、棒状の「バー・インデックス」を使用します。しかしながら十九世紀の懐中時計、及び二十世紀前半までの腕時計と懐中時計では、インデックスに必ず数字が使われ、バー・インデックスが使われることはありません。数字の種類はほとんどの場合がアラビア数字で、稀にローマ数字も使われます。本品のインデックスもこの時代の時計にふさわしいアラビア数字です。





 六時の位置には直径六ミリメートル足らずの円があり、"10" から "60" までの数字が書かれています。これはスモール・セカンド(小秒針)用の文字盤で、長さ四ミリメートルほどの針が回っています。

 現代の時計は「中三針(なかさんしん)式」といって、秒針は時針、分針と同じく文字盤の中央に取り付けられています。しかしながら秒針を時針、分針と同じ位置に取り付けるのは技術的に難しいことで、古い時代の時計は、ほとんどの場合、六時の位置にスモール・セカンド(小秒針)を取り付けていました。よほど特殊なものを除いて、懐中時計はみなスモール・セカンド式ですし、1950年代以前の男性用腕時計もスモール・セカンド式です。本品もその例に漏れません。





 時針、分針、小秒針は青い色をしていますが、これは「ブルー・スティール」(青焼き)といって、鋼を加熱して青い酸化被膜を作ったものです。「ブルー・スティール」は見た目が美しいことに加えて腐食(錆)に強くなります。現代の時計の青い針はたいていの場合青く塗装していますが、本品の針は真正の「ブルー・スティール」で、文字盤の色とよく調和しています。

 本品の針はアール・デコ期に特有の形で、懐中時計に多用されたデザインです。本品は腕時計ですが、クロックや大きな懐中時計と同じく重厚でオーソドックスな表情を持っています。





 本品には 3/0サイズの円形ムーヴメント「エルジン グレード 462」が搭載されています。「エルジン グレード 462」は 1917年から 1932年まで作られていた機種で、エルジン社による腕時計用ムーヴメントとしては最も初期の機械のひとつです。受けに刻まれたシリアル番号 "32016829" から、本品の製作年代は 1930年頃であることが分かります。

 「エルジン グレード 462」は現代の機械式時計と同じ「クラブトゥース脱進機」を搭載しています。石数は七石で、調速脱進機においてルビーが必要な部分にはすべてルビーを入れています。上の写真においてムーヴメントの右端付近で回転しているのは「天符」(てんぷ)という部品です。天符は振子時計の振子に相当し、機械式懐中時計及び機械式腕時計の最重要な部品です。

 「エルジン グレード 462」の天符は、ひげぜんまいという細いぜんまいの働きによって、一時間当たり一万八千回という高速で振動(往復するように回転すること)し、規則正しい動きによって正確に時を測ります。上の写真は時計を動作させて撮影しました。この時代のムーヴメントに耐衝撃装置は付いていませんが、天符の軌跡が全くブレていないことからもお分かりいただけるように、本機の天真は折れず、曲がらず、たいへん良い状態です。





 ルビーは天符の中心に見えています。ルビーを取り巻く金色の部品は「シャトン」(仏 chaton)といって、金(ゴールド)でできています。軟らかい金属であるゴールドでできたシャトンは、鋼鉄製の地板と受けにルビーをしっかりと嵌め込む役割をしています。

 ルビーの数は一個しか入っていないように見えますが、二重に重なった部分や見えない部分を含めると七個のルビーが使われています。1920年代の腕時計の石数は後世に比べて少ない傾向があり、本機の「七石」もこの時代としては普通の石数です。七個のルビーはすべて調速脱進機(天符とその周囲)に使われており、機械式時計の心臓部が摩耗しないようにしっかりと守っています。


 下の写真は本機の天符付近で、ブルー・スティール製のひげぜんまいが写っています。このひげぜんまいは「ブレゲひげ」または「巻き上げひげ」という種類で、現代の時計ではほとんど見ることができない高級な作りです。ブレゲひげが乱れると修整がほぼ不可能ですが、本機のブレゲひげは良い状態です。本機はオーバーホール済で、順調に動作しています。





 このムーヴメントを作った「エルジン・ナショナル・ウォッチ・カンパニー」(The Elgin National Watch Company エルジン時計会社)は、1864年から 1968年までアメリカ合衆国に存在していた名門ウォッチ・メーカーです。イリノイ州シカゴから五十キロメートル余り北西にある町エルジンに世界最大の時計工場を建設し、1867年から 1964年までの間におよそ六千万個にのぼる良質の時計を製作しました。

 アメリカで隆盛を誇った時計産業は第二次世界大戦後に消滅し、エルジン時計会社もまた 1960年代末、完全に操業を停止しました。現在新品として販売されているクォーツ式「エルジン」はおそらく中国製で、かつてのエルジンとは何の関係もありません。

 「エルジン グレード 462」は八十四年前に生産を終了しています。エルジン社自体、およそ五十年前に消滅しています。しかしながら当店は「エルジン グレード 462」の修理に必要な各種の部品を確保しています。





 上の写真でムーヴメントの右側に写っているのは、ステンレス製裏蓋の内側です。本品は腕時計として作られながらも懐中時計の面影を随所に色濃く留めています。ケースの作りは懐中時計用ダスト・プルーフ・ケースと共通しており、竜真が途中で分かれるようになっています。二つに分かれた竜真のうち、竜頭(りゅうず)が付いたほうは四つバネを介してケース裏蓋に固定されています。


 当店に在庫している各種四つバネの一部


 アメリカの時計各社はムーヴメントを自社で制作する一方、ケース専業メーカーからケースを買っていました。ケースのデザインは様々であり、エルジンをはじめとする時計各社は同じムーヴメントをさまざまなケースに入れて多種の時計を作っていました。「エルジン グレード 462」もさまざまなデザインのケースに入っています。四つバネは形やサイズが様々で、非常に多くの種類があります。

 アンティーク時計の四つバネが壊れた場合、非常に多くの種類から、その時計に完全に適合する四つバネを探し出す必要があります。しかしながら四つバネは八十年以上前のアンティーク時計にしか使われていないため、現代まで残っている数が少なく、多くの種類を在庫しているアンティーク時計店はありません。

 同時代の同じような時計を部品取り用に手に入れれば良い、と考えられる方もあるかもしれません。しかしながら四つバネの種類はケースの外見からはわからず、実物を確かめる必要があります。同じような外見のケースにも、全く異なる四つバネが使われているからです。また四つバネはバネの一種で、金属疲労による破損を避けることができず、いつか必ず壊れます。したがって同じケースを使用した部品取り用時計が見つかったとしても、大抵の場合、肝心の四つバネが壊れています。そもそもこの時代の時計は、必要な四つバネが見つからなくて、止むを得ず部品取り用になっている場合が多いのです。

 以上のような理由で、修理に必要な四つバネはまず手に入らず、四つバネが破損したアンティーク時計を復活させることはできません。しかしながら当店では多様な四つバネを大量に用意して、修理の必要に備えています。ご安心ください。上の写真は当店に在庫している四つバネの一部です。最前列の左から四つ目が本品に使われているのと同種の部品です。





 本品の風防はプレクシグラス(高透明度のアクリル樹脂)製です。もともと取り付けられていたガラス製風防も十分に使える状態でしたが、美しいデザインのデッドストック品が在庫していたので、取り換えました。商品写真に写っているのは取り替えた後の風防(FULTON RFT-25.5)です。

 ケースの本体とベゼル(文字盤を取り囲む部分)、及びラグ(バンドを取り付ける突起)は、ロールド・ゴールド・プレートまたは金張りでできています。本品のケースに張られている金は十カラット・ゴールド(純度 10/24の金)または十四カラット・ゴールド(純度 14/24の金)で、十八金に比べて強度が格段に強く、色の点でも淡く上品なシャンパン・ゴールドをしています。

 ロールド・ゴールド・プレート、及び金張りとは、金の薄板を高温高圧によってベース・メタルの表面に鑞(ろう)付けした素材です。現代の金めっき(エレクトロプレート)に比べると金の厚みは数十倍に達し、摩耗に強く、見た目にも高級感があります。写真を見ていただければわかるように、九十年近く前の品物であるにもかかわらず、金はまったく剥げていません。





 裏蓋は肌と擦れ合うので、時計ケースのうちで最も摩耗しやすい部分です。しかしながら本品の裏蓋はステンレス・スティールでできおり、通常の使用によって摩耗することはありません。上の写真は本品の裏蓋側を撮影したものです。裏蓋に細かい傷はありますが、特筆すべき問題は何もありません。





 本品に適合するバンド幅(バンドを取り付ける部分の幅)は十六ミリメートルで、ヴィンテージ・ウォッチ(アンティーク時計)の標準的なサイズです。商品写真は新品の革バンドを取り付けて撮影しました。他の色の革バンドや、金属製バンドを取り付けることもできます。アンティーク時計のバンドは元々取り付けられていた「オリジナル」でなくても構いません。革製のものは言うまでもなく、バンドはすべて消耗品ですし、昔のバンドが使える状態で残っていたとしても、それは前の所有者が自分に合うサイズ、好みのデザインのバンドを取り付けているだけのことです。時計会社はバンドまで作っていませんから、自分に合うサイズとデザインのバンドを取り付けるのが、アンティーク時計との正しい付き合い方です。




 上述したようにエルジン社はもう存在しないので、時計が故障しても同社に部品を注文することができません。故障の際に部品が手に入らないという理由で、アンティーク時計はお買い上げ後の修理、メンテナンスに対応しない「現状売り」となるのが普通です。しかしながら当店にはエルジンをはじめとするアンティーク時計の部品が多く在庫しており、長期に亙り修理に対応いたします。ご安心ください。

 本品は男性用として作られた時計ですが、二十世紀中葉以前の時計は現在に比べて小さめのサイズであり、たいへん上品であるゆえに、女性にも十分にお使いいただけます。バンドはお好きな色、質感、長さのバンドに換えることができます。時計会社はバンドまで作っていませんので、アンティーク時計のバンドをお好みのものに取り換えても、アンティーク品としての価値はまったく減りません。時計お買上時のバンド交換は、当店の在庫品であれば無料で承ります。

 当店の時計は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払い(二回払い、三回払い、六回払いなど。利息手数料なし)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。





本体価格 89,000円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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