(下の二枚) 別売りのメダイを取り付けて撮影







ブローバ アール・デコ宝飾時計 キャリバー6AH 17石 ダイヤモンド十石付 1941年


 アメリカのブローバ社が 1941年に制作した女性用時計。上品な金色のケースにアラビア数字文字盤を採用した小さな時計で、秒針が無いドレス・ウォッチです。17石のスイス製手巻ムーヴメント「ブローバ キャリバー 6AH」を搭載しています。





 「アール・デコ」(art déco フランス語で「装飾美術」の意)とは 1920年代から 1940年代にかけて流行した美術工芸及び建築の様式で、幾何学図形で構成されたデザインが特徴です。12時側と6時側に大きく突出したラグ(バンドを取り付ける部分)には、それぞれ五個ずつ、計十個のメレ・ダイヤモンドが嵌め込まれています。このダイヤモンドはごく小さく、時計から取り外してジュエリーにできるほどの石ではありませんが、ラインストーンやキュービック・ジルコニアではなく、天然のダイヤモンドです。ダイヤモンドはいずれもプロング・セット(爪留め)されています。





 透かし細工を施した大型のラグは、ダイヤモンドで飾られているだけでなく、手の込んだミル打ちが施されている点でも豪華な印象です。「ミル打ち」はアンティーク・ファイン・ジュエリーに見られる彫金技法です。本品が制作された時代は時計が非常に高価であったので、ミル打ちのような技法が手間を厭わず使われましたが、いつしかこのように面倒な彫金細工は行われなくなりました。

 彫金が行われなくなったのは、コストのせいだけではないかもしれません。アンティーク時計の時代には、きっと時間がゆったりと流れていたのでしょう。現代では数百万円もする時計にも鏡面のような研磨仕上げが行われます。艶やかに光る研磨仕上げは一見したところ高級感がありますが、磨けばよいだけなので、ミル打ちのような彫金に比べると、はるかに効率良く制作できます。





 時計内部の機械を「ムーヴメント」(英 movement)、ムーヴメントを保護する金属製の容器(時計の外側)を「ケース」(英 case)といいます。本品のケースは10カラット・ゴールド・フィルド 、つまり 10カラットの金張り(ゴールド・フィルド)です。「金張り」とは板状の金をベース・メタルに張り付けたもので、現代の金めっきに比べると、金の厚みは数十倍に達します。そのため摩耗に強く、見た目にも高級感があります。本品のケースに張られている金は10カラット・ゴールド(純度 10/24のゴールド)ですので、十八金に比べて金そのものの強度が格段に強く、色の点でも淡く上品なシャンパン・ゴールドをしています。

 上の写真は時計の裏蓋側で、"10K GOLD FILLED"(10カラット・ゴールド・フィルド)、"BULOVA"(ブローバ)、及びケースのシリアル番号の刻印があります。金張りの磨滅、裏蓋の歪み等、特筆すべき問題は何もありません。





 本品の文字盤は中央が高くなったトノー型(樽型)で、半艶消しのライト・シルバーに、"BULOVA"(ブローバ)の文字と立体インデックスを配します。インデックスのアラビア数字はケースと同色の明るい金色で、優雅な斜体字となっています。この文字盤は 1941年当時のオリジナルです。商品写真は実物の面積をかなり拡大していますので、微小なキズや変色が見えやすいですが、実物を肉眼で見ても気になりません。針はいかにもアンティーク・ウォッチらしいランス型(槍型)で、やはり 1941年当時のオリジナルです。





 1930年代から1950年代頃までの女性用時計には、アーチ状に盛り上がったクリスタル(風防)が流行していました。本品のクリスタルは当店にて1940年当時のデッドストック品に交換いたしました。写真はいずれも交換後に撮影しています。

 ぜんまいを巻いたり時刻を合わせたりする際のツマミを、竜頭(りゅうず)といいます。アンティーク時計は毎日ぜんまいを巻く必要がありますので、竜頭が摩耗しやすいですが、本品の竜頭は新品に近い良好な状態です。竜頭にはブローバの刻印があります。





 本品のムーヴメント(時計内部の機械)は電池ではなくぜんまいで動いています。本品のようにぜんまいで動く時計を「機械式時計」といいます。良質の機械式時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはたいへん硬い鉱物ですので、高級時計の部品として使用されるのです。必要な部分すべてにルビーを入れると、「17石」(じゅうななせき)のムーヴメントになります。





 17石のムーヴメントは「ハイ・ジュエル・ムーヴメント」(英 high jewel movement)と呼ばれる高級品です。本品のムーヴメントには「セヴンティーン・ジュエルズ」(17 SEVENTEEN JEWELS 17石)、「スイス」(SWISS スイス製)、「ブローバ・ウォッチ・カンパニー」(BULOVA WATCH Co. ブローバ時計会社)等の刻印があります。





 上の写真の左上にあるアステリスク(星型)のような刻印はブローバ社のデイト・コード (date code) で、このムーヴメントが1941年に製作されたことを示します。"6AH" はムーヴメントの機種名(キャリバー名)です。「ブローバ キャリバー 6AH」は、スイスのオロール=ヴィルレ社(またはベルノワーズ社 Fabrique d'ébauches Bernoises S.A. établissement AURORE Villeret)の「キャリバー 120」を元に制作した機械で、6.75 x 8 リーニュ、毎時 18,000振動 (f = 18000 A/h)、パワー・リザーヴ 40時間の手巻きムーヴメントです。

 オロール=ヴィルレ社はエボーシュ(ébauche フランス語で「素地」「下描き」等の意)の専門メーカーで、ブローバ社はこの会社からエボーシュ(ムーヴメントの半完成品)を買って調速脱進機を取り付け、「ブローバ キャリバー 6AH」を完成しています。ロレックス社もまったく同じ機械 (AV cal. 120) を採用していますが、「ブローバ キャリバー 6AH」の方がより丁寧な仕上がりです。





 上の写真は 1960年代のブローバ社の広告で、「ブローバの時計を一つ作るのに九か月かかる」(It takes nine months to make a Bulova watch.) と書かれています。実際には安価な時計であれば給与二か月分程度で売られていたので、この広告の意味は、もしもひとりの職人が時計全体を作ったとすれば九か月かかるということでしょう。現代の独立時計師は実際に数か月の時間をかけてひとつの時計を作りますから、数百万円から一千万円以上の価格になっています。





 上の写真の手前に写っている銀色の環は「天符」(てんぷ)という部品で、振子の役割をします。いまは撮影のために止めていますが、時計が動いているとき、「ブローバ キャリバー 6BK」の天符は一時間に 9,000回、往復するように回転します。天符に取り付けられている金色の「チラネジ」は、天符が均等に振れるように重さを調整するための部品です。一緒に写っている定規のひと目盛は 1ミリメートルです。大きな頭の部分で測っても、チラネジの径は 0.4ミリメートルほどしかありません。

 現代ではコンピュータ制御の産業ロボットを使って微細な加工ができますが、1941年当時はすべての精密加工が人の手によるものでした。千分の一ミリメートルの精度で百個近くの部品を作り、これを組み立ててひとつの時計が完成します。





 1940年頃の女性用時計は一円硬貨よりも小さなサイズですから、男性用時計よりもさらに高度な技術で制作されています。1941年当時、ハイ・ジュエルの宝飾時計である本品の価格は、初任給の三か月分以上に相当しました。現在の貨幣価値に換算すれば、60万円位でしょうか。良質の時計はたいへん高価であったわけですが、しかしながらこれは「ブランド代」ではなくて、「一生もの」と呼べるだけの内実、実質的価値を伴っていました。ムーヴメントにルビー製部品を多用するのも、優れた耐久性と長寿命を確保するためです。





 上の写真は本品と同型の部品取り用ムーヴメントです。アンティーク時計はどこの店でも原則的に「現状売り」で、壊れても修理が困難ですが、アンティークアナスタシアでは他店で不可能な修理に対応しています。詳しくはこちらをご覧ください。

 クリスタル(風防)交換やバンド交換、バンドの種類の変更も可能です。私はコード・バンドが高級感があって好きなので、写真撮影にもこのタイプのバンドを取り付けましたが、お好みにより金属製バンドに変更することもできます。バンド交換は無料で承ります。







 上の写真は別売りのメダイユを取り付けています。メダイユはフランス製で、鳩と愛を通い合わせる童形の天使が浮き彫りにされています。

 この時計は当時の箱と組み合わせることもできます。箱は別売りですが、時計をお買い上げいただいた方には割引価格にてご提供いたします。





 1941年に製作された本品が有する非常に華やかな雰囲気に、私はアメリカ時計の最後の輝きを見る気がします。

 本品が制作されたのと同じ年、1941年の12月7日に、日本が真珠湾を奇襲攻撃して、日米両国は戦争に突入します。このときまでアメリカでは時計産業が盛んで、スイスよりも高品質の時計を作っていました。同じオロール=ヴィルレ社の「キャリバー 120」を元に改変しても、ロレックス社のムーヴメントよりもブローバ社の「キャリバー 6AH」のほうが高品質であったのは、その一例です。しかしながらアメリカ国防総省は、臨時の法令により、日米戦争の間、アメリカの時計各社に軍用時計のみを作らせました。その結果アメリカの時計会社はスイス時計に顧客を奪われ、戦後はスイス時計と同じ水準の製品を作るようになり、やがて次々に操業を停止してゆきました。ブローバ社は幸いにも倒産を免れましたが、本品のように華やかな意匠の時計は、二度と作られることがありませんでした。





 本品は70年以上前に製作された本物のアンティーク時計ですが、外側の美しさ、機械の動作とも良好です。時計は無料でオーバーホール(分解掃除)をした後にお渡しいたします。お買い上げ後も期限を切らずに修理に対応しますので、日々安心してご愛用いただけます。

 お支払方法は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払いでもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。





本体価格 148,000円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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