稀少な完品 銀の柔らかな曲線美 《輝く青のエモー・ブレサン 半球形ペンダント 34 x 30 mm》 ローズ・カットの赤色ガラス付 フランス 二十世紀


上部の可動環を除くペンダント全体のサイズ 幅 30 x 高さ 34 mm

重量 7.2 g


半球形部分の直径 12 mm  最大の厚さ 12 mm




 あらゆる方向の光を受けて輝く半球形のペンダント。鮮やかな青色エマイユ(七宝)に金箔を浮かべ、白と赤の半透明ガラスでアクセントを付けています。フランス東部の都市ブルカンブレス(Bourg-en-Bresse オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏アン県)で制作されたアンティーク品(ヴィンテージ品)です。





 ブルカンブレスを含むアン県はスイス国境に近く、ラ・ブレス・サヴォヤルド(仏 la Bresse savoyarde サヴォワに属するブレス)と呼ばれる地方に属します。ブルカンブレスはラ・ブレス・サヴォヤルドの主邑で、エモー・ブレサン(仏 les émaux bressans ラ・ブレスのエマイユ細工)の産地として知られます。エモー・ブレサンはエマイユの胎(下地)となる金または銀板に多様なパターンを打ち出すこと、シャンルヴェやクロワゾネのような隔壁無しに多色を用いること、色鮮やかな作品が多いこと、金箔や色ガラスの小球、ときには宝石を使って手の込んだ装飾を施すことが特徴です。





 エモー・ブレサンはシャンルヴェでもクロワゾネでもなく、独特の技法によって制作されます。エマイユの下地となる金属はフランス語ではフォン(仏 fond 土台、底、裏などの意)ですが、我が国では胎(たい)と呼んでいます。エモー・ブレサンの胎は銀または金の薄板で、分厚い金属板の上に置き、多様な細密パターンが打ち出されます。細密パターンはエマイユの色にさざ波のような濃淡を与えて目を楽しませるだけでなく、ガラスが金属に融着する面積を凹凸によって拡大し、エマイユの剥落を防ぐ役割もあります。本品では胎を埋め尽くす小さな窪みが、さざ波のような明暗を青色ガラスに与え、あたかも海中から水面を見上げるように美しい輝きを表現しています。





 エマイユの元となるガラス粉末をフリット(仏 fritte)といいます。フリットは繰り返して洗浄されて不純物が除かれ、純水で溶かれます。フリットの主成分は珪素、酸化鉛、酸化ナトリウム、酸化カリウムで、これに各種金属の酸化物を加えることで意図する発色を得ます。エマイユは摂氏 860度で数度に亙って焼成されますが、まず最初に焼成されるのはコントレマイユ(仏 contre-émail)、すなわち胎を保護するために裏面に施されるエマイユです。表(おもて)面に関しては最初に単色のエマイユが施され、その上に他の色のエマイユ、金箔、色ガラスの小珠が付加されて、そのたびに焼成が重ねられます。

 本品ペンダントは中央部分が半球形に突出し、三次元作品の表面を溶融ガラスで覆うエマイユ・シュル・ロンド=ボス(仏 l'émail sur ronde-bosse)となっています。ロンド=ボス(仏 la ronde-bosse)とは丸彫り、すなわち浮き彫りではない完全に三次元的な彫刻を表すフランス語です。三次元の金製あるいは銀製工芸品にエマイユを掛けるエマイユ・シュル・ロンド=ボスの技術は十三世紀末にフランスで考案され、王侯貴族のために多数の品物が制作されました。ルネサンス期、バロック期にも数々の名作が制作され、十九世紀に入るとファベルジェの作品に多用されました。





 金箔は厚さ二センチメートルの鉛板に大きな箔を載せ、十六通りから選んだ型をあてがって、ひとつひとつ木槌で打ち抜きます。金箔はピンセットを使ってトラガカントゴム(仏 gomme adragante マメ科植物から得られる粘稠液)で固定されますが、エマイユの最上層に置かれるとは限らず、下層や中層に置かれることもあります。焼きあがったエマイユは台座にセットされてジュエリーが完成します。

 本品の頂部には蓮華文様の金箔装飾が置かれ、その中央に赤色ガラスが乗せられています。ガラスが完全に溶融するとカボション状になりますが、本品の赤色ガラスはローズ・カット様の形状を保ち、フランスのアンティーク・ジュエリーに時折使われるアルマンディン・ガーネットを思わせます。

 蓮華の花弁は所々がコモン・オパールのような白色半透明ガラスで彩られています。このようなガラスの小珠を付加する作業は高度の熟練を要します。珠の大きさを揃えるのも難しいですが、最も困難なのは炉で加熱するときで、炉から引き出すのが数秒遅れると珠が融けて流れ、製品は使い物にならなくなります。





 これらの工程を経て無事に完成したエマイユはジュエリー職人に引き渡され、枠にしっかりとセットされて、輝くように美しいジュエリーが出来上がります。エモー・ブレサンは銀製枠に覆輪止めされますが、銀は金よりも硬いので、エマイユを破損せずに覆輪留めを行うには高度の熟練を要します。拡大写真をご覧いただければ、細心の注意を以てタガネが丁寧に使われているとお分かりいただけます。

 台座にセットしたエマイユは、透かし模様となった大きな枠で取り巻かれています。枠はエマイユの台座を取り巻くように銀の曲線を溶接し、曲線と曲線を銀の小球で繋いで補強しています。この枠は見た目に美しいだけではなく、ガラス製のエマイユを守るバンパーの役割も兼ねています。







 フランスにおいて純度 800パーミル(800/1000、80パーセント)の銀を示す検質印は、イノシシの頭または蟹です。本品は上部に突出した環に蟹の検質印と銀細工工房のマークが刻印されています。





 エモー・ブレサンは制作にたいへん手間がかかる工芸品で、それなりに高価ではありますが、宝石と貴金属のジョワヨ(仏 joyaux ファイン・ジュエリー)ほどではありません。それゆえ多くは農村に住んでいたラ・ブレス地方の人々にとって、エモー・ブレサンは人生の節目に欠かすことができないビジュ・レジオノ(仏 les bijoux regionaux 地域固有のジュエリー)となりました。初整体を受ける少女にはエモー・ブレサンのクロワ・ド・クゥ(十字架型ペンダント)が贈られました。意中の女性への贈り物にはエモー・ブレサンのコリエ・デスクラヴァージュ(仏 collier d'esclavage 「奴隷の首飾り」 首飾りの一種)が選ばれました。エモー・ブレサンの装身具は大切な財産として母から娘へと伝えられ、女性たちは人生の様々な機会にエモー・ブレサンのビジュ(仏 bijoux ジュエリー)を身に着けました。





 エモー・ブレサンは都会で豊かな生活を楽しむ人々にも人気があり、ヴィネグレット(仏 vinaigrette 人が轅を取る二輪の轎車)の装飾、オペラグラス、カルネ・ド・バル(仏 carnet de bal 舞踏会に携行する手帳)、シャトレーヌ(仏 châtelaine 女性が懐中時計等を提げる装飾的な鎖)、カフスボタンなどが制作されました。エモー・ブレサンによるこれらの品々は教養と趣味の良さ、裕福さ、女性の愛らしさの徴(しるし)でした。アンナ・パヴロワは世界を熱狂させたプリマ・ドンナであり、今日に至るまでおそらく最も有名なバレリーナですが、彼女がエモー・ブレサンの熱烈な愛好家であったことはよく知られています。





 ペンダントのサイズは全体の直径が 30ミリメートル、半球形エマイユの直径が 12ミリメートル、厚さが 12ミリメートルです。上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。









 エモー・ブレサンはエマイユ部分がドーム状に盛り上がっているため、稀に見つかる古い品物もほとんど常に破損箇所があって、完品は極めて稀です。支払う金額の問題ではなく、品物自体が無いのです。本品は真正のアンティーク品あるいはヴィンテージ品であるにもかかわらず稀少な完品であり、実用上、美観上とも特筆すべき瑕疵(かし 欠点)は何もありません。下記の価格は良心的に付けています。お買い上げいただいた方には必ずご満足いただけます。

 当店の商品は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払い(金利手数料無し)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。お気軽にご相談くださいませ。





本体価格 58,000円  ※ 6回、10回、12回等の分割払い可。

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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