女神アテナの美しきフクロウ 手仕事に宿る「見出される美」 エマイユ・クロワゾネによるフランスのアンティーク・シンブル 24.0 x 20.5ミリメートル


高さ 24.0 mm  開口部の外径 20.5 mm


フランス  十九世紀



 ブロンズの前面にエマイユを施したデ・ア・クードル(dé à coudre シンブル、指ぬき)。ふくろう(みみずく)をモティーフにフランスで作られたアンティーク品で、針を押す部分はクール(仏 cœur)すなわち心臓形(ハート形)になっています。外側は多色のエマイユ・シャンルヴェで彩られ、内側にも美しいターコイズ・ガラスのエマイユが施されています。





 みみずく(ふくろう)はアテナ(ミネルヴァ)の遣いであり、知恵を象徴します。クールは生命を象徴するとともに、愛を象徴します。本品に使用されたガラスの色に関しても、青は知恵を象徴し、赤は愛を象徴します。またみみずくの正面にある植物の意匠は、生命力と成長する力を表します。





 本品はフランスのアンティーク品で、作風と色遣いから、リモージュで作られた品物と判断できます。

 エマイユの種類は、クロワゾネ(cloisonné)です。表面にみられる金色の線は自由奔放で、一見したところ細い筆で金彩を乗せたものにしか見えません。しかしながら高倍率のルーペで注意深く観察すると、驚くべきことに、これらの線はすべてブロンズの針金であることがわかります。すなわちブロンズの指ぬきに同素材の針金を溶接して複雑なパターンを描き、丁寧な研磨で高さを揃えています。






 本品はロンド=ボス(仏 la ronde-bosse 丸彫り)、すなわち浮き彫りではなく完全に三次元的な物品ですから、多色のエマイユを表裏に施すためには、数度にわたる窯入れと、各色のフリットの融解温度を計算した厳密な温度管理が必要です。


  ルネ・ユイグ René Huygue, 1906 - 1997


 金属加工職人とエマイユ職人がこれほどまでの労力をかけて作った本品には、職人と芸術家が未分化であった中世の品物と同質の美が宿っています。フランスの美術史家ルネ・ユイグ(René Huyghe, 1906 - 1997)は、1955年の著書「見えるものとの対話」("Dialogue avec le visible", Flammarion, 1955)において、手仕事による実用品が生得的に備える美を、生きた芸術を求める職人の感受性が作品に残した刻印である、と論じました。このような美は、物品に対して意図的に付加された付属物ではなく、感受性豊かな職人の手の動きをとどめる作品のうちに、自然に見いだされるものです。気の遠くなるような手仕事で作られた本品のうちには、ルネ・ユイグが指摘する通り、職人芸術家の感受性の刻印である内在的な美が、自ずから現れ出ています。


 本品は十九世紀の品物であり、製作に非常な労力が費やされているにもかかわらず、高価な銀を使っていません。この事実は、本品を作った職人が、「贅沢こそ美である」という十九世紀的な感覚に毒されていなかったことを示します。本品には作者の名前も工房の名前も彫られていませんが、これは芸術家と職人が未分化であった時代と同じ精神に基づき、職人芸術家の手仕事で作られた品物であるからです。作者の感受性が手の動きとなって表れ、本品に深く刻印された「美」は、指貫の実用的機能に対して後から付加された飾りではなく、実用的機能と渾然一体となって、本品の内奥から滲み出るように現れています。





本体価格 22,800円 販売終了 SOLD

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