柘榴
grenades, grenadier




(上) "Grenadier punica", par Pierre-Joseph Redouté (1759 - 1840)


 柘榴(ざくろ)の原産地は不明ですが、一説には北アフリカと考えられています。柘榴のラテン語名(学名)は「プーニカ・グラーナートゥム」(羅 Punica granatum)で、これは「ポエニー人の地の、粒の多い果実」という意味ですが、この名は北アフリカ起源説に由来します。柘榴はエジプトからギリシアを経由し、またカルタゴからローマを経由して、ヨーロッパに入りました。


【多産と豊穣を象徴する柘榴】

 柘榴(ざくろ)は種が多い他の植物、すなわちシトロン、オレンジ、かぼちゃ等と同様に、多産と子孫繁栄、豊穣を象徴します。古代ギリシアにおいて、柘榴はヘラ及びアフロディーテーの木とされました。古代ローマでは花嫁の髪に柘榴の小枝を挿しました。

 キリスト教は柘榴の象徴性を霊的次元に引き上げました。十字架の聖ヨハネは柘榴の球形が神の永遠性を、種の多さが神の豊かさを、果汁の甘さが神の甘美さを象徴すると考えました。十字架の聖ヨハネは「エル・カンティコ・エスピリトゥアル B」(ハエン写本)において、魂が味わう至福直観の幸福を美しい詩句に写し取り、次のように謳っています。日本語訳は筆者(広川)によります。


   35.    Gocémonos, Amado,
y vámonos a ver en tu hermosura
al monte ó al collado
do mana el agua pura;
entremos más adentro en la espesura.
 l. 171  愛しい方。私たちは楽しんで、
あなたの美のうちに、
山や丘を見に行きましょう。
そこには混じりけの無い水が噴き出ています。
私たちは木々のもっと奥まで分け入りましょう。
   36.    Y luego a las subidas
cavernas de la piedra nos iremos,
que están bien escondidas,
y allí nos entraremos,
y el mosto de granadas gustaremos.
 l. 176  そしてその後、高いところにある
石の洞窟に行きましょう。
その洞窟はよく隠されています。
私たちはその場所に入りましょう。
そして柘榴の果汁を味わいましょう。
   37.    Allí me mostrarías
aquello que mi alma pretendía,
y luego me darías
allí, tú, vida mía,
aquello que me diste el otro día:
 l. 181  私の魂が望むあのものを、
そこで私に見せてください。
その後、私に
その場所で、わが命であるあなたよ、
先日私に下さったものを与えてください。


【魂を地に引き留める柘榴 ― ペルセフォネーの例】

 柘榴が多産と豊穣をもたらすとは、柘榴が肉体に魂を宿らせるということです。換言すれば、これは、柘榴が生命力を地上あるいは地下に引き下ろす力を有する、ということでもあります。ハーデースに攫われたペルセフォネーは冥界の柘榴数粒を食べたために、数か月を冥界で過ごさなければならなくなりました。この逸話は柘榴が有する「魂を引き留める力」をよく表しています。


【旧約聖書における柘榴】

・祭服の上着の裾に取り付けられる柘榴の飾り

 「出エジプト記」二十八章には、祭司が身に着ける祭服の使用が定められています。同章三十一節から三十五節は上着に関する規定で、上着の裾に金の鈴と毛糸製の柘榴の飾りを交互に取り付けるように定められています。

・カナンの豊かさを示す柘榴

 「民数記」十三章によると、モーセは神の命により、自身の後継者ヨシュアを初めとする密偵を派遣して、カナンの地を探らせました。密偵たちはエシュコルと名付けた場所で葡萄の房を切り取り、柘榴、無花果(いちじく)とともに宿営に持ち帰って、カナンの農産物が豊かであることを示しました。「民数記」十三章二十三節には「エシュコルの谷に着くと、彼らは一房のぶどうの付いた枝を切り取り、棒に下げ、二人で担いだ。また、ざくろやいちじくも取った。」(新共同訳)と書かれています。「申命記」八章七節から十節には神がイスラエルに下さる土地の豊かさについて、「小麦、大麦、ぶどう、いちじく、ざくろが実る土地、オリーブの木と蜜のある土地」と描写されています。

・ヤキンとボアズに取り付けた柘榴の飾り

 「列王記 上」七章十五節から二十二節には、名匠ヒラムが青銅で造ったソロモン神殿の柱、ヤキンとボアズが描写されています。二本の柱の柱頭には、柘榴を模った多数の装飾が付いていました。ヤキンとボアズに取り付けた柘榴も、豊穣と多産の象徴です。

・愛の媚薬としての柘榴

 「雅歌」には数か所に柘榴が出てきます。八章二節には「わたしを育ててくれた母の家にあなたをお連れして、香り高いぶどう酒を、ざくろの飲み物を差し上げます 」とあります。

 新共同訳聖書では分かりにくいですが、この箇所はヴルガタ訳で「私はあなたを連れて、我が母の家にお連れします。あなたはそこで私に[愛を]教えてくださり、私は香辛料を加えた葡萄酒の杯を、また私の柘榴汁を、あなたに差し上げましょう。」(Apprehendam te, et ducam in domum matris meae : ibi me docebis, et dabo tibi poculum ex vino condito, et mustum malorum granatorum meorum.)となっています。

 筆者(広川)がここで「愛を教える」と訳した " docebis"は、無知な少女に性行為を教えることを指します。「香辛料を加えた葡萄酒の杯」は、媚薬あるいは強精剤のようなものでしょう。また柘榴は多産の象徴でもありますから、少女が「私の柘榴汁」を差し出すとの描写は、性交への同意を表しています。



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