ウィリアム・ブグロー作 「アムール・フラテルネル」(兄弟愛) イエス・キリストにおいて合一する智と愛 ギュスターヴ・ベルティノによるエングレーヴィング 263 x 185 mm 1876年

William Bouguereau, "AMOUR FRATERNEL", engraving by Gustave Bertinot, published on "the Art Journal" 1876


原画の作者 ウィリアム・ブグロー (William Bouguereau, 1825 - 1905)

版の作者 ギュスターヴ・ベルティノ (Gustave Bertinot, 1822 - 1888)


エングレーヴィングの画面サイズ  縦 263ミリメートル  横 185ミリメートル


1876年



 不世出の天才画家ウィリアム・ブグロー(William Bouguereau, 1825 - 1905)が、弱冠二十九歳であった 1854年に描いた油彩画「アムール・フラテルネル」(AMOUR FRATERNEL 兄弟愛)。原画はボsトン美術館に収蔵されています。

 「アムール・フラテルネル」はフランスの版画家ギュスターヴ・ベルティノ(Gustave Bertinot, 1822 - 1888)の手によって美しいグラヴュール・シュル・アシエ(仏 gravure sur acier スティール・エングレーヴィング)となり、1876年、D. アップルトン社のアメリカ合衆国版「ジ・アート・ジャーナル」に掲載されました。本品はその実物で、良質の中性紙に刷られているために、古い年代にもかかわらずたいへん綺麗な状態です。





 この作品「アムール・フラテルネル」は、風俗画として見た場合、作品名のとおりに兄弟愛あるいは友愛を表します。しかるに宗教画として見た場合、智と愛の合一を表します。

 この作品において、聖母は左の膝に幼子イエスを座らせています。聖母が膝にイエスを座らせる図像は、「セーデース・サピエンティアエ」(羅 SEDES SAPIENTIAE)、すなわち上智の座の聖母像です。「セーデース・サピエンティアエ」の図像において、「サピエンティア」(羅 SAPIENTIA 上智、智恵)とはロゴス(希 λόγος)なるキリストのことです。




(上) ラファエロ・サンツィオ作 「椅子の聖母」 Ch. シューラーによるスティール・エングレーヴィング 直径 183 mm 1875年 当店の商品です。


 「セーデース・サピエンティアエ」は聖母子のみの像で或る場合が多いですが、洗礼者ヨハネが加わる場合もあります。ラファエロの「マドナ・デッラ・セディア」(伊 "Madonna della Sedia" 小椅子の聖母)はその一例です。本品「アムール・フラテルネル」にも洗礼者ヨハネが描かれています。しかしながら通常の「セーデース・サピエンティアエ」像において、洗礼者ヨハネは常に脇役であり、画面の端に描かれます。「マドナ・デッラ・セディア」のヨハネもそのように描かれています。

 これに対して本品では、洗礼者ヨハネを画面の手前中央に大きく描く異例の構図となっています。イエスとヨハネは相抱き、接吻を交わしています。聖母はイエスを膝に乗せるだけでなく、ヨハネを包み込むように膝を大きく開き、イエスとヨハネの両方を腕の中に包み込んで抱いています。





 上述したように、「セーデース・サピエンティアエ」のイエスはサピエンティア(智恵)を表します。本品は単色の版画ですが、ブグローの油彩では聖母は青い衣を着ており、智恵を強調した色彩となっています。しかるにブグローは聖母子とヨハネを三角形に配置して、三人を安定したひと塊として画面中央に描いています。この三人は視覚的に一体を為し、聖母はヨハネを膝の間、あるいは腕の中に受け容れて、ふたりの幼児を平等に慈しんでいます。イエスはヨハネを抱き、ヨハネはイエスを抱いています。愛を強調したこの構図において、サピエンティア(智恵)は愛と一体であり、実体として区別することができません。

 智と愛が実体において一つであるのは、スコラ哲学において「シンプリキタース・デイー」(羅 SIMPLICITAS DEI 神の単純性)と呼ばれる神の属性であり、人間には理解のできないミステリウム(秘義)です。ウィリアム・ブグローはキリストにおける「愛と智恵の同一性」という言語化困難なキリスト教的秘義を、万人に親しみやすい風俗画の様式によって、この作品「アムール・フラテルネル」のうちに形象化しています。







 「アムール・フラテルネル」はウィリアム・ブグロー(Adolphe William Bouguereau, 1825 - 1905)が 1854年に描いた作品です。本品(エングレーヴィング)が製作された 1876年の時点で、ブグローの作品はほとんどがアメリカ合衆国の顧客に販売されていました。1878年のパリ万博でブグロー展が開かれたときには、フランス国内に作品が残っていなかったために、わずか十二点の作品しか展示されませんでした。「アムール・フラテルネル」はボストンの絵画収集家トーマス・ウィグルワース氏(Thomas Wigglesworth, 1814 - 1907)に買い取られ、氏の没後にボストン美術館に寄贈されました。

 「アムール・フラテルネル」の版を彫ったのはギュスターヴ・ベルティノ(Gustave Bertinot, 1822 - 1888)で、技法はグラヴュール・シュル・アシエ(仏 gravure sur acier スティール・エングレーヴィング)です。上の写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。グラヴュール(エングレーヴィング)はビュラン(彫刻刀)を金属板に直接適用し、人力で溝を刻む製版技法で、たいへんな時間と労力を必要とします。ギュスターヴ・ベルティノは人物の肌と髪、衣の全てをグラヴュール(エングレーヴィング)で製版し、オー・フォルト(エッチング)による部分は地面のみです。十九世紀の版画家の丁寧な仕事ぶりにもいつも驚かされます。


 本品は百年以上前のアンティーク美術品ですが、良質の中性紙に刷られているために、劣化は一切ありません。





 版画は未額装のシートとしてお買い上げいただくことも可能ですが、当店では無酸のマットと無酸の挿間紙を使用し、美術館水準の保存額装を提供しています。上の写真は額装例で、外寸 40 x 31センチメートルの木製額に、緑色ヴェルヴェットを張った無酸マットを使用しています。この額装代金は 24,800円です。

 額の色やデザインを変更したり、マットを替えたりすることも可能です。無酸マットに張るヴェルヴェットは青や赤、ベージュにも変更できますし、ヴェルヴェットを張らずに白や各色の無酸カラー・マットを使うこともできます。


 版画を初めて購入される方のために、版画が有する価値を解説いたしました。このリンクをクリックしてお読みください。

 お支払い方法は、現金一括払い、現金分割払い(二回、五回、十回など。利息手数料なし)、ご来店時のクレジットカード払いがご利用いただけます。遠慮なくお問い合わせください。





本体価格 63,000円 額装別

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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