稀少品 ムリリョ作 「ドレスデン絵画館の聖母子」 古典的フォトグラヴュールによる大型フォリオ ベルリン、リヒャルト・ボング美術出版 1900年

Bartolomé Esteban Murillo, "la Virgen con el Niño" (Maria mit dem Kinde), Richard Bong Kunstverlag, Berlin, 1900



原画の作者 バルトロメ・エステバン・ムリリョ (Bartolomé Esteban Murillo, 1617 - 1682)

製版 リヒャルト・ボング・クンストフェルラーク (Richard Bong Kunstverlag, Berlin)


絵のサイズ 縦 36 x 横 24 cm

額全体のサイズ 縦 69 x 横 52 cm  厚さ 2.5 cm


ドイツ  1900年



 バロック美術における最高の画家のひとり、バルトロメ・エステバン・ムリリョ(Bartolomé Esteban Murillo, 1617 - 1682)による聖母子。ムリリョは何点もの聖母子像を描いていますが、これはドレスデンのアルテ・マイスター絵画館(die Gemäldegalerie Alte Meister)に収蔵されている 1670年頃の作品です。





 ラファエロが描く聖母の美しさは非の打ち所が無く、あたかも美のイデアを女性の姿で表したように見えます。ムリリョが描く聖母も美しいですが、ラファエロの場合とは異なって、生身のスペイン女性のように見えます。その意味で、ムリリョの絵にはリアリスムが感じられます。しかしムリリョのリアリズムは、カラヴァッジョの場合のような美醜を度外視したリアリスムとは異質のものであり、むしろラファエロやアンニバーレ・カラッチの作品と同質の美を有します。

 わざとらしさの無い「生身の人物」を優しく温かい目で見つめながらも、ムリリョの作品は均整と明澄さを決して失いません。これはとても不思議なことに思えます。なぜならば、生身の人物を明澄に捉えようとすれば描き方が細密になり、画面が硬直しそうに思えるからです。また生身の人物に自然な姿勢を取らせれば、画面の均整が崩れがちだからです。しかしながらムリリョが描く生身の人物は、常に明澄で均整が取れた美を見せてくれます。ムリリョの作品は伝統的画題から離れて浮浪児を描いても明澄さと均整は保たれていて、リアリスムの過酷さではなく、優しさと温かさを感じさせるのです。

 筆者(広川)の考えでは、これはムリリョが見る人の想像力を味方に付けているからではないでしょうか。ムリリョは作品をミニアチュールのような精密さで描き込まず、見る人それぞれの想像力によって細部を補わせます。そのため見る人それぞれの心にある愛と優しさが、無意識のうちに作品と融け合い、いわば画面に仕上げのタッチを加えるのです。

 西ヨーロッパの美術史を概観すると、中世の絵は写生ではなく、範型に従って描くものでした。ルネサンス期に遠近法が見出されると、画家たちは目に見えるとおりの世界を描くことに熱中しました。しかしながら光と空気の効果を採り入れずに幾何学的遠近法のみに頼ると、画面が作り物のようになってしまいます。赤と緑のセロファンを通して見る立体写真のような画風になってしまうのです。レオナルド・ダ・ヴィンチはスフマート(伊 sfumato ぼかし)によってこの問題を解決しました。その後、世界を映す鏡のようなネーデルラント絵画を経て、ヴェネツィア絵画は色と明暗の推移を簡略に描く方法を見出しました。見る人それぞれの想像力に作品の細部を補わせることにより、簡略な描法でリアリスムを実現したのです。ルーベンスやベラスケスも同様の描法の名手であり、十九世紀の印象派はとりわけベラスケスを自分たちの魁(さきがけ)と見做しました。ムリリョもルーベンスやベラケスと同様の手法により、見る人の想像力に仕上げのタッチを加えさせて、温かみのあるリアリスムを実現しています。





 本品は十九世紀最後の年である 1900年に、ベルリンの美術専門出版社リヒャルト・ボング・クンストフェルラーク(Richard Bong Kunstverlag)が刷ったフォトグラヴュールで、豪華画集「マイスターヴェルケ・デル・マーラライ アルテ・マイスター ツヴァイテ・ザムルンク」(Meisterwerke der Malerei, Alte Meister. Zweite Sammlung)から採られた一葉です。ここで私が「フォトグラヴュール」と言うのは、版画、すなわち平坦な金属版による古典的フォトグラヴュールのことであって、現代の「グラビア印刷」(輪転機によるオフセット印刷)のことではありません。作品をルーペで見ても、現代の美術印刷のような網点はありません。額の裏側の板を外すと、平たい金属版が紙に付けたくぼみが確認できます。

 絵の下に封入された薄紙には、次の言葉がドイツ語で記されています。

     Meisterwerke der Malerei. Zweite Sammlung    美術の名品 第二集
     Verlag von Rich. Bong, Berlin W.    リヒャルト・ボング社
         
     Bartolomé Esteban Murillo, Maria mit dem Kinde    バルトロメ・エステバン・ムリリョ 「聖母子」
     Königliche Gemäldegalerie, Dresden    王立絵画館 ドレスデン






 本品は百年以上前のアンティーク美術品ですが、良質の中性紙に刷られているために、劣化は一切ありません。当店の額装は完全な無酸マットを使用した保存額装です。額縁は木製で、規格外寸法の特注品です。お買い上げいただいたお客様には必ずご満足いただけます。


 版画を初めて購入される方のために、版画が有する価値を解説いたしました。このリンクをクリックしてお読みください。





本体価格 94,800円 (額装込み)

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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