バルトロメ・エステバン・ムリリョ作 「十字架上のキリストを抱くアッシジの聖フランチェスコ」 レオポール・フラマンによるエッチング 143 x 224 mm

"San Francisco de Asís abrazando a Cristo crucificado", eau forte par Léopold Flameng


画面サイズ  横 143 mm  縦 224 mm


原画の作者 バルトロメ・エステバン・ムリリョ(Bartolomé Esteban Murillo, 1617 - 1682)

版の作者 レオポール・フラマン(Léopold Flameng, 1831 - 1911)


1860 - 80年代頃



 絵画と版画の両方に優れた才能を発揮したフランスの芸術家レオポール・フラマンによるオー・フォルト(エッチング)。ムリリョの油彩画に基づき、キリストを幻視するアッシジの聖フランチェスコを描いています。




(上) Murillo, "San Francisco abrazando a Cristo en la Cruz", Óleo sobre lienzo, 283 x 188 cm, circa 1668, Sevilla, el Museo Provincial de Bellas Artes


 ムリリョはカプチン・フランシスコ修道会(羅 Ordo Fratrum Minorum Capuccinorum)からセビジャ修道院付属聖堂を飾る作品の制作を依頼され、1668年から 1669年にかけて連作を描いています。「十字架上のキリストを抱くアッシジの聖フランチェスコ」(西 "San Francisco abrazando a Cristo en la Cruz")はその内の一枚で、フランチェスコの召命を主題に制作されています。他の画家たちも同じ主題で作品を描いていますが、エッチングの元になっているムリリョの作品はおそらく最も有名です。

 本作において、聖フランチェスコはただキリストにのみ目を注ぎ、被造的世界の象徴である球体を踏みつけています。プッティすなわち童形のケルビム(智天使)が開く福音書は、ケルビム自身とともに、「まことの智」を象徴します。「まことの智」とはセーデース・サピエンティアエ(羅 SEDES SAPIENTIAE 上智の座)に乗るイエス・キリストのことでもあります。開かれた書物には、「すべての所有物を捨て去らない者は、わたしの弟子になることができない」(羅 qui non renuntiat omnibus, quae possidet, non potest meus esse discipulus)というイエスの言葉(「ルカによる福音書」十四章三十三節)が、ヴルガタから引用されています。

 「十字架上のキリストを抱くアッシジの聖フランチェスコ」は縦 283センチメートル、横 188センチメートルという大きなサイズです。現在セビジャ美術館(西 el Museo de Bellas Artes de Sevilla)に収蔵されています。





 この版画はレオポール・フラマン(Léopold Flameng, 1831 - 1911)の作品で、技法はオー・フォルト(仏 eau forte エッチング)によります。

 線刻による金属版インタリオにはグラヴュール(エングレーヴィング)オー・フォルト(エッチング)がありますが、これら二つの技法は溝の刻み方が違うだけでなく、刷り上がった作品の雰囲気が大きく異なります。グラヴュールは極めて細密な描写を得意としますが、ビュラン(彫刻刀)の刻む溝が直線あるいは緩やかな曲線に限られるために、刷りあがった作品は硬質に輝く画面となり、柔らかな雰囲気が失われがちです。これに対してオー・フォルトは紙にペンでスケッチするような小さい筆圧で製版を行うので、線の自由度が大きく、作品の刷り上がりは柔らかな画面となります。絵画を版画で再現する場合、ダヴィッドのような作品にはグラヴュールが、ムリリョのような作品にはオー・フォルトが適しています。





 本品はムリリョの油彩画を移したものですが、原画の構図と比率が正しく写し取られているのみならず、ムリリョの原画が有する半ば夢のような雰囲気が、巧みに再現されています。

 細部を大きく拡大すると、レオポール・フラマンはキリストの胴体に輪郭線を描かず、インタリオ(伊 intaglio 凹版)によるスフマート(伊 sfumato ぼかし)を実現していることがわかります。ムリリョの原画において、この部分は雲の明部を背景としています。しかしながらキリストの真後ろは明るいとはいえ雲がありますから、背景に由来する光は手前におられるキリストの輪郭を侵食するほど強くありません。実際、キリストの胴体を抱く聖フランチェスコの手指には輪郭線が描かれています。版画家がキリストと聖人の描き方を区別しているのは、自然主義的な理由ではないのです。

 レオポール・フラマンは聖人の手に輪郭を描く一方で、同じ場所にあるキリストの胴体をスフマートで描いています。これはイエス・キリストが「まことの光」(ヨハネ 1:9)であることを明示するためです。聖人から見て、ケルビムが開く書物と同一の方向におられるイエス・キリストは、まことの智(上智)に他なりません。「ヨハネによる福音書」によると、ロゴス(希 λόγος ことば)であるキリストは命であり、暗闇の中で輝く光です(ヨハネ 1: 1 - 5)。

 単色の版画は物事の本質を鮮やかに描き出します。このオー・フォルトにおいて、キリストは自身から発出する光によって聖フランチェスコを照らしています。キリストを抱く聖人の上半身は、光として可視化されたキリストの愛と聖性に柔らかく包まれています。版画家レオポール・フラマンの優れた腕前は、地上にありながらキリストのみに目を向ける聖フランチェスコの魂を、ムリリョの原画にも増して強調的に可視化することに成功しています。


 本品のグラヴール(仏 graveur 版画家)であるレオポール・フラマンは、ブリュッセルに生まれ、フランスで活躍した芸術家です。画家としても仕事をしましたが、最も才能を発揮したのはオー・フォルトの分野で、フランスの美術誌「ガゼット・デ・ボザール」("La Gazette des beaux-arts", 1859 - 2002)の仕事を皮切りに、本の挿絵や独立した版画として数多くの優れたオー・フォルト(エッチング)を制作しました。

 レオポール・フラマンは 1878年のパリ万博でメダルを獲得し、1898年にはフランス美術アカデミー(l'Académie des beaux-arts)の会員に選ばれました。レオポール・フラマンのオー・フォルトは、ルーヴル美術館、国立公文書館、パリ高等美術学校(l'École nationale supérieure des beaux-arts de Paris, ENSBA)をはじめとするフランス国内の美術館のほか、ロンドンのナショナル・ポートレイト・ギャラリー、アメリカのサンフランシスコ美術館などにも収蔵されています。わが国では神奈川県立近代美術館と山梨県立美術館がレオポール・フラマンのオー・フォルトを収蔵しています。





 版画は未額装のシートとしてお買い上げいただくことも可能ですが、当店では無酸のマットと無酸の挿間紙を使用し、美術館水準の保存額装を提供しています。上の写真は額装例で、外寸 40 x 31センチメートルの木製額に、青色ヴェルヴェットを張った無酸マットを使用しています。この額装代金は 24,800円です。

 額の色やデザインを変更したり、マットを替えたりすることも可能です。無酸マットに張るヴェルヴェットは赤、緑、ベージュ等に変更できますし、ヴェルヴェットを張らずに白や各色の無酸カラー・マットを使うこともできます。


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56,800円  (税込み、額装別)

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