十九世紀のミニアチュール版画 「ピグマリオーンと、台座から降りた彫刻の乙女」 逸名エングレーヴァーによる細密な作品 141 x 96 mm

Pigmalion


画面サイズ  縦 141 mm  横 96 mm



 古代ローマの詩人オウィディウスはギリシア・ローマ神話を題材にした数々の変身物語を集めて、「メタモルフォーセース」("METAMORPHOSES")という長大な詩集を著しました。「メタモルフォーセース」第十巻はオルフェウスの詩がその内容となっており、同巻第 243行から 297行ではピグマリオーンの物語が謳われています。


  人間の女を厭い、長年に亙って独身を通していたキプロスの男ピグマリオーンは、真っ白な象牙で美しい女性像を作り、自作の像を人間の女性の代わりに愛するようになりました。像は象牙に過ぎないので、ピグマリオーンがいくら可愛がっても愛が返ってくることはありません。それでもピグマリオーンは象牙の乙女に接吻し、話し掛け、愛らしさを誉め、若い女が喜ぶような物を贈り、像に添い寝をしていました。

 キプロスで最も人出が多いウェヌスの祭礼の日、ピグマリオーンは女神の祭壇において、象牙の乙女に似た妻を与えてくれるように祈りました。しかしながら象牙の乙女を妻に迎えたいのがピグマリオーンの本心でした。ピグマリオーンの心を察したウェヌスは祈りに応えて、象牙の乙女に生命を与え給いました。ピグマリオーンは思いがけない出来事に狂喜しつつウェヌスに感謝し、人間の女となった象牙の乙女を妻に迎えました。およそ十か月後、ふたりの間には娘が誕生しました。





 本品は十九世紀の逸名版画家による細密なエングレーヴィングで、キプロスの彫刻師ピグマリオーンと、人間の娘に変身した象牙の乙女を刻んでいます。版画の情景は乙女が人間に変身した直後を描いたものらしく、ピグマリオーンは腕を広げたまま呆然と佇み、表情には喜びよりもむしろ驚愕が読み取れます。眩暈(めまい)さえ感じているのか、ピグマリオーンは右手で長椅子の背を掴み、体を支えています。一方、人間となった乙女は台座から降り、ピグマリオーンの顔を見て微笑んでいます。




(上) Jean-Léon Gérôme, "Pygmalion et Galatée", c. 1890, Huile sur toile, 88,9 x 68,6 cm, Metropolitan Museum of Art, New York


 古典古代の文学において、キプロスのピグマリオーンは偽アポロドーロスの「ビブリオテーケー」("BIBLIOTHECA")第三巻十四章三節、及びオウィディウスの「メタモルフォーセース」第十巻に言及があります。偽アポロドーロスはピグマリオーンを王であるとし、オウィディウスはピグマリオーンの身分について特に言及していません。一方ピグマリオーンの妻について奇跡的な変身譚を語っているのはオウィディウスのみであり、偽アポロドーロスはこの点に関して何も語っていません。したがって本品版画はあくまでもオウィディウスを典拠としつつも、豪華な調度に飾られた室内の描写に関しては、ピグマリオーンが王であったとする偽アポロドーロスの証言に影響を受けていると考えられます。

 上に示した油彩はジェロームの作品です。ジェロームは写実的描写を得意とした画家ですから、彫刻師ピグマリオーンのアトリエを如何にも仕事場に相応しく描いています。しかしながら近世から近代にかけて描かれた多くの作例において、古代をテーマとする絵画の背景に豪華な建物や調度を描くのが普通のことでした。「クラシック」(英 classic 「ギリシア・ローマの」の意)から「クラシカル」(英 「上流階級の」の意)が派生した事実は、古代と高級さの同一視を端的に象徴しています。このような事情により、本品はオウィディウスに拠りつつも、宮殿のような場所が舞台になっています。





 上の写真は本品の拡大で、定規のひと目盛りは一ミリメートルです。一ミリメートルあたり二本ないし三本の溝が刻まれていることが分かります。





 乙女が羞じらいつつ上げるまなざしはピグマリオーンの視線と絡み合います。ピグマリオーンの心は驚愕が次第に喜びに置き換わり、彫刻家の口元も綻(ほころ)び始めています。







 当店の版画は未額装のシートとしてお買い上げいただくことも可能ですが、当店では無酸のマットと無酸の挿間紙を使用し、美術館水準の保存額装を提供しています。上に示した二枚の写真は額装例で、外寸 26 x 32センチメートルの木製額に、緑色ヴェルヴェットを張った無酸マットを使用しています。この額装代金は 15,800円です。

 額の色やデザインを変更したり、マットを替えたりすることも可能です。無酸マットに張るヴェルヴェットは赤、緑、ベージュ等に変更できますし、ヴェルヴェットを張らずに白や各色の無酸カラー・マットを使うこともできます。


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 お支払い方法は、現金一括払い、現金分割払い(二回、五回、十回など。利息手数料なし)、ご来店時のクレジットカード払いがご利用いただけます。遠慮なくお問い合わせください。





本体価格 36,000円 額装別

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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